前代未聞の暗いクリスマスを迎えた欧州、2019年は国民主権強化へ

Brexit Yellow vests

 英国のメイ首相に対する不信任案が否決され1つのヤマ場を越えましたが、英国と欧州連合(EU)の今後の関係が明るいとはいえません。欧州から見れば英国は混乱しているだけと映り、英国からすれば、EUは離婚宣言した英国に無理な条件を押しつけ、手を離そうとしないと感じているといえます。

 いずれにせよ、ブレグジットが実際に行われる2019年は不透明感に満ちていますが、大陸欧州でも、このクリスマス時期に暗雲が垂れ込めている。フランスでは10日夜、同国最大規模の毎年恒例のストラスブールのクリスマスマーケットで発砲事件が起き、2人が死亡、1人が危篤状態、負傷10数人を出しました。

 フランスのカスタネール内相は12日未明、この事件を受け、テロの警戒レベルを「差し迫った攻撃の可能性」に引き上げ、テロ事件として捜査を開始しています。この警戒レベルの引き上げで国境管理の強化だけでなく、全国全てのクリスマスマーケットで監視が強化されると同時に、警戒レベルが下がるまで大都市の特定地区でのデモも禁止されました。

 政府の措置を見てフランス人は、このテロは、マクロン大統領の退陣を迫る黄色いベスト運動をテロ対策強化を理由に押さえ込むため、政府が仕組んだと疑う声まであがっています。10日にようやく重い口を開いたマクロン大統領は、自らの失策を認め、国民に謝罪し、即効性のある施策を打ち出しましたが、黄色いベスト運動は収束の見通しが立っていません。

 実は、この黄色いベスト運動は労働者階級が中心に起こしたように見られていますが、そうではなく昨年春に就任したマクロン大統領と圧倒的議席を占める素人政治家の多い共和国前進への不満が爆発したものでした。

 昨年春の大統領選の決選投票で、対立候補だった極右のルペン候補を大統領にするわけにいかないとして、39歳で一度も国政選挙経験のないエリートのマクロン氏に懸けたフランス国民ですが、熱は完全に冷めた状態です。フランス国王ルイ14世直系の子孫、ルイス・デ・ブルボン氏(44)まで、黄色いベスト運動に支持を表明しています。

 貧乏人や能力のないものを小馬鹿にする、上から目線のマクロン大統領の態度にうんざりした一般市民が、嫌悪感を露にした黄色いベスト運動は、自然発生的に起きたことからポピュリズム的です。この怒れる人々の反政府抗議運動は、ドイツやオランダでは反移民、反イスラムの極右集団に拡がっています。

 クリスマスといえば、キリスト教徒にとっては、最大の恩恵を持って現れたイエス・キリストの生誕を祝う1年で最も喜びを分かち合う時です。そんな時期にクリスマスのイルミネーションで世界中の人々を魅了してきたパリのシャンゼリゼ大通りは抗議デモの暴徒化で、商店やレストランは破壊され、ボロボロの状態です。

 そこに今度はクリスマスマーケットでテロが発生しました。2年前、ドイツのベルリン中心部のクリスマスマーケットにイスラム過激派の男がトラックで突入したテロがありました。キリスト教徒に敵意を抱くイスラム過激派は、キリスト教の祝日や関連施設をテロの標的としてきました。

 経済的にもクリスマスは重要な時期です。この時期に年間の7割を稼ぐ玩具を初めとするクリスマス関連商品が、抗議運動での交通遮断で流通が滞り、ネット購入した商品も届かない事態に発展しています。毎週のデモで商店やレストランは閉店され、美術館、博物館も閉鎖され、ホテルもキャンセルが続いています。

 今年のクリスマス商戦は壊滅的被害を受けており、クリスマスマーケットでのテロ発生で、客足は遠のく可能性もあります。ここまでボロボロのクリスマスを迎えたのは過去にないもので、ヨーロッパにとっては不吉な予兆のようです。

 EUを牽引してきたドイツのメルケル首相の時代が終焉し、メルケル首相と共に改革の旗手でEUの牽引役だったマクロン氏も国政軽視への批判が高まり、国民の突き上げにあっています。加盟各国は主権と国益重視に傾いています。

 欧州は2019年、ブレグジットを含め、大規模なリセット曲面を迎えることでしょう。アメリカでグローバル化に取り残された国民の不満がトランプ政権を生み出したように、欧州も大規模な調整曲面に入ると思われます。その根底にはエリート政治家や官僚と一般市民の埋めがたい認識のギャップの露呈があるように見えます。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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