経験知や事情通重視の日本企業 本当に重要なのは成長をもたらす経営判断能力

situation

 某大手電気メーカーの人事部の人に「リーマンショック後の就職氷河期といわれた時代に、就職できなかった30代の優秀な人を雇うことはないのですか」と質問したら、「それはありえません。うちはまだ人間が真っ白いうちに新卒採用で雇うか、即戦力のある業務経験豊富な人しか雇いません」との答えが返ってきました。

 今回、日産自動車の今後に大きな影響を与える仏自動車大手ルノーの会長人事で、新会長に就任した仏タイヤメーカー、ミシュランのスナール氏について「自動車業界に精通した人物」との指摘がありました。つまり、自動車業界の事情に明るいことを安心材料としているわけです。

 日本ではこれまでプロパー人材、つまり1社でたたき上げの人間しか昇進させない考えが非常に強く存在しました。特に職人文化の根強い製造業では、その考えは根強く「会社の隅々まで知っていること」「業界に通じていること」は、何にもまして重要と考えられてきました。

 会社の隅々まで知っているというのは事業内容だけでなく、どんな人間がどんな部署に配属されているか、どんなリーダーシップのもとで組織が動いているかなど、企業文化全般を理解するという意味です。加えて、会社の関わる業界の競合相手や勢力図、業態の時代変化、そこに関わる人間も含めて事情通であることが求められてきました。

 つまり、状況把握は本人がどんな頭脳や才能を持っているか以上に重要だということです。これは村社会独特の考えで、組織の目に見えないルールや決まり事、人間関係を含めた村社会の慣習に馴染むことが大切という考えです。だから、自動車業界に精通したルノーのスナール新会長には、ガバナンス強化とともに世界の自動車業界の動き合わせた適切な戦略が求められているわけです。

 この状況把握重視は、至る所で見られますが、特に近年、重要さが増している「情報共有」には大きな影響を与えています。それを象徴するのが会議の長さ。日本企業の会議の長さは世界的にも有名で、その非効率性が指摘され、時間を短くするために立ち席で会議をする企業も出てきているほどです。

 会議の目的の重要な要素の一つは情報共有で、新しい状況への対処には、まずは情報共有が必須です。しかし、実は情報共有しているつもりで、実は「状況共有」している場合が多いのが日本の会議です。理由の一つは日本は常識共有度の高いハイコンテクスト社会だからだと思われます。

 ハイコンテクスト社会では、ある状況に対しての結論に各自の大きな差異がないということです。たとえば会社が経営的に傾いている状況に対して、日本人なら大半が、もっと頑張るしかないと思うのが、アメリカ人ならすぐ転職先を考えるというように、コンテクストが違えば、多様な判断があって当然なために状況共有だけでは仕事は前に進みません。

 しかし、コンテクスト(文脈)が似通っていれば、状況さえ共有すれば結論は皆同じというわけです。ところが状況は日々刻々と変化しているので、状況把握を重視する場合は、何度も会議をするしかありません。情報共有しているつもりで状況共有しているわけです。

 ただ、事情に通じるには時間が掛かります。日産のゴーン前会長は、20年前に日産に送り込まれた後、毎月のように全国の工場やディーラーを周り、状況把握を短期間で行い、リバイバルプランを作成しました。日本的な考えなら、最初の3年は会社を知ることに費やされるところですが、倒れ掛かった会社の再生には時間がありませんでした。

 ここで学べることは、ハイコンテクストではコミュニケーション効率は高い一方で、日々刻々と変わる状況ぼ共有には時間が掛かる非効率性もあるということです。実は状況把握といっても、ある状況をどう理解し、どう分析し、どのように対処するか結論を導き出すことが重要です。それは経験も必要ですが、集る人間の状況分析力、思考力、問題解決能力にかかっているわけです。

 つまり、経験知や事情通であることだけでは、組織を成長させる重要な決定はできないということです。だから、欧米ではビジネススクールが発達したわけです。実際、会社の事情に通じたプロパー人材の経営陣で構成される日本企業が、全てうまくいっているわけではありません。

 無論、経営手法は、その国の文化に依存するのは、その国の人間がマジョリティなら当然のことです。しかし、グローバル化の中で文化の違いからシナジー効果を発揮するためには、日本文化を客観的に理解し、考え方の幅を拡げる必要があります。その意味では世界中の企業が同じような試練に直面しているいえます。

ブログ内関連記事
多文化チームの一人一人が精神的消耗を脱してクリエイティブ脳を活性化するには
異文化を甘く見る日本企業や個人が取り返しのつかない事態に陥らないために
経験知と能力、グローバル環境で成果を上げるにはヒューマンへの関心が必要
なぜ日本企業の会議は世界的に見て長いと批判されるのか?
 


関連記事

プロフィール

artworks21

Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

カレンダー

04 | 2024/05 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

検索フォーム

QRコード

QR