命取りになる倫理基準は各国で違うが、過去の言動や画像がSNSで拡散されるリスクが生じている

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 誰でも今の自分にとって都合の悪い過去は隠したいものです。ところが今では多くの人々が利用するソーシャルネットワーク・サービス(SNS)で、あっという間に人の過去は拡散する恐れがあります。ウォールストリートジャーナルは「若気の至りでは済まない、SNSで拡散する過去」と題した記事で、米バージニア州のラルフ・ノーサム知事を取り巻くスキャンダルの例を挙げています。

 聖人君主でないかぎり、葬り去りたい過去はあるはずですが、権力を持つ者、成功者など有名人の古い卒業アルバムや過去に撮られた画像を、誰かが見つけて嫉妬深い大衆に向かってSNSで拡散させる時代です。さらに、そのSNS自体に書き込んだ過去のコメントや写真が過去を暴く有力な証拠になる時代に入っています。

 ノーサム知事の場合、20代半ばの1984年に制作された医大の卒業アルバムの同氏のページで、顔を黒く塗った人物と白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の衣装を着た人物が並んだ写真が掲載されていたことが、知事にふさわしくない過去として糾弾されています。

 同じようなことで昨年秋、米連邦最高裁判事指名をめぐり、ブレット・カバノー氏の高校の卒業アルバムの自身のページに掲載されたコメントが、性的行為を意味するふしだらな言葉として批判を受けました。結局、最高裁判事に指名されましたが、清廉潔白であるべき判事にふさわしくないイメージが拡散しました。

 これらは同級生なら誰でも持ち、学校にも保管されている過去の卒業アルバムの例ですが、今後はネット上のSNSに記録された本人の発言や写真、動画も証拠になります。それもAIを使えば、人種差別や性差別など不快感を与え有害となる可能性のある画像や文書は、あっという間に検索できてしまう時代です。

 日本であれば、大企業トップの過去を暴くようなことはしていませんが、今後、政治家同様、公人として過去の言動が問われる時代がくるかもしれません。それに1社の中のプロパー人材が昇格する日本では過去の言動もよく知られているわけですが、日本も転職が普通になれば、その人物が持っている倫理規範はチェックが必要です。

 人事採用での人物調査で、過去を調べることが一般化する可能性があり、そうなると隠したい過去の失敗や言動も容易に分かってしまうことになります。アメリカでは雇用機会均等法で採用や昇格時に性的志向、人種、宗教などを選抜の根拠にすることは禁止されていますが、容易に個人情報が過去に遡って入手できるなら、知りたいのが会社の本音でしょう。

 事実、昨年来の「#MeToo」運動の高まりの中、社内事故を避けるため「企業は上級幹部や取締役の採用候補者全員について、過去25年以上さかのぼって身元調査をすべきだ」と助言するアメリカの人事コンサルタントもいるそうです。
 アメリカでは、性的不品行や人種差別は命取りになりかねない状況ですが、各国で命取りになる倫理基準は異なります。ただ、セクシュアルハラスメントについては、世界的に敏感になっており、若気の至りでは済まされない状況になりつつあります。

 今後は、結婚相手に対しても、容易に素行調査ができるようになるかもしれません。無論、DV男性や浮気癖のある異性と結婚するリスクは少なくなる利点はあるでしょうが、それでは人間が過去を悔いて改め、新たな人生のチャンスに挑戦する機会は失われるかもしれません。

 会社も危機管理の観点から、過去の悪質な言動や恥ずかしい言動がなかったかを確かめることは有効といえる反面、機会を与えるという点では人の人生を絶望の淵に追いやる可能性もあります。ただ、若気の至りをどこまで悔いているかを知る手だても、なかなかないのも実情です。

 ただ、ウォールストリートジャーナルは、「それが明るみに出たときにどう説明するか、誰に頼るべきか(旧友や元クラスメートなど)、誰が助けになりそうな文脈を与えてくれそうかなどをよく考えておくことが一番だ」と書いています。

 確かに「彼にはあんな過去があるけど、あれから驚くほど変わり、素晴らしい人間になった」という証言をしてくれる知人、友人が複数いれば、大きな助けになることも事実でしょう。しかし、多くの人は言い訳や友人の証言を得る機会は与えられず、判断されてしまいます。

 できることは過去の隠蔽ではなく、その都合の悪い過去を今はどう分析し、どう向き合っているかを誠実に説明することでしょう。それに日々作られる過去は消せないわけですから、言動には日々、十分気をつけることしかできません。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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