個性を失った乗用車に問題提起する英国で人気の「フィガロ」が物語ること

14607164496_ea4d923121_b
    英国の街並みにピッタリ合う日産フィガロ

 はっきりいって、この10年間、世界の各自動車メーカーが作る乗用車のデザインには個性がありません。まるで流行りの洋服をまとうように、高級車から大衆車まで、どのメーカーなのか分らないほど似ていると感じるのは私だけではないでしょう。

 新興国の自動車メーカーが先進国のメーカーを露骨に真似するのは仕方がないことですが、ともかく、かつて個性を誇っていた、たとえばフランスのシトローエン車も、その面影がない没個性的車を作っています。大量生産、大量消費という観点からすれば、仕方のない現象かもしれませんが、昔はデザインの裏には各メーカーが持つテクノロジーを含めた明確なコンセプトがありました。

 無論、今でもハイブリッドから電気自動車(EV)まで、テクノロジーで各社は競っていますが、そのテクノロジーを搭載する車自体の姿自体は、個性的とは言い難いものがあります。ニューヨークタイムズ紙が紹介した英国でブームの1990年代初頭に売られた小型オープンカー日産の「フィガロ」は、車の個性について考えさせられるものがありました。

 ニューヨークタイムズ紙によれば、1991~92年に販売されていたフィガロの英国での登記台数は3000台以上だそうです。当初は日本国内向けで8,000台の限定生産だったのが、人気上昇に伴い2万台まで増やし、なんと英国のギターの名手、エリック・クラプトンは来日した際に購入し、個人輸入したそうで、特に英国での人気が高いネオクラシックカー的存在になっています。

 実は1992年頃、私は、教鞭を執っていたフランスの大学にフィガロで通う夢を見ていた一人です。学生の多くが車で通う大学で、誰も見たことのない日本のアニメに登場しそうな、ちょっと漫画チックでレトロな車、それも中身は確かな日本車の技術で作られた最新車という取り合わせは、学生たちに強烈なインパクトを与えると考えたからです。

 その念願は適いませんでしたが、フィガロのベースになったマーチの2代目も英国人好みで、1992年の欧州カー・オブ・ザ・イアに輝いています。1990年代といえば、かつて一世を風靡したフォルクスワーゲンのビートルがニュービートルに生まれ変わり、英ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)が生んだ大衆車、ミニが、ニューミニになり、現在はBMW傘下で生産販売されています。

Figaro black
   今でもロンドンの町に存在感を示すフィガロ

 フィガロは、それ自体がクラシックカーの復刻的存在なのですが、英国で人気が衰えないのを見ると、個性溢れる愛らしい車を所有し続けるユーザーが存在し、人気の根強さを伺わせます。

 英国は、サッチャー時代に外資の積極受入れに舵を切り、得意な金融ビジネスを全面に出したために製造業を捨て去った感があります。かつて英国らしい車を作っていたモーリス、トライアンフ、オースチン、サンビーム、デイムラー、ローバー、リライアントといったブランドは消滅しました。

 日産はルノーとの経営統合に強い抵抗を示していますが、英国は多くの国産ブランドを手放し、消滅させています。そんな英国人が、なぜか英国の香りがする不思議なフィガロに心を寄せているのは興味深いことです。どうせ大量には売れないだろうと思って作った車が長く愛されていることは、たまにはあるものです。

 私自身にとっては、たとえばフランスのクラシック大衆車であるシトローエンのドゥー・シュボーや義理の叔父の愛車ルノー・カットルも魅力ですが、中身は技術に問題もあり、運転もしにくいため、機嫌をとりつつ付き合っていくしかありません。しかし、フィガロは高性能の日本車と漫画チックで英国風デザインがマッチしたところが魅力です。

 映画「カーズ」のキャラクターにしても不思議でないようなフロントの顔を持つフィガロは、愛しいペット的存在なのかもしれません。日本では軽自動車で女性好みの愛らしいパステルカラー・デザインの車種が作られていますが、フィガロはその軽さとも違い、人気刑事ドラマ「相棒」でも出てくるスノッブさと大人の心を和ませる人間性を持った車といえます。

 世界の各自動車メーカーの競争が激化し、メーカーの統廃合も進む厳しい市場ですが、息長く愛される名車は少ないのも現状でしょう。フィガロは日本らしさと人間らしさを加味し、日本性能で信頼感が厚く、それも車の個性に一石を投じた存在として、大げさにいえば、今もそれを問い続けているようにも見えます。

ブログ内関連記事
ホンダ英国生産終了、英労働党議員10人離党でブレグジット・クライシスが本格化か
日産自動車と英国政府の駆け引き、ゴーン氏への密約文書公開で今後の展開は?
日産とルノーの綱引き 日本で報じられないフランスの苦しい内情


 
関連記事

プロフィール

artworks21

Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

カレンダー

04 | 2024/05 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

検索フォーム

QRコード

QR

コメント

非公開コメント