海外進出先のマネジメントがうまくいっていないことを示す2つの典型的兆候

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 日本と異なる文化的背景を持つ人たちと協業する海外進出先の職場では、しばしば想定外の問題が発生します。中には駐在している日本人従業員が気付かない間に問題が深刻化する事態に陥り、修復に大変な労力を費やすこともあります。

 たとえば、オランダにヨーロッパの本拠地を置く日系大手化学メーカーでは、マネジメントクラスのオランダ人らが、突然、会議をボイコットする事態が起きたことがあります。駐在する日本人幹部らは、良好な人間関係が築けていると思い込んでいました。というのも人事担当の日本人はキーになるオランダ人とは家族ぐるみの付き合いをしていたからです。

 会議をボイコットした理由は、日本本社が持ち込んだやり方が一方的に押し付けられ、ヨーロッパ市場を熟知する自分たちの意見が軽視され、意思決定の権限移譲がされていないことに抗議するためでした。いわゆるナショナルスタッフを不快にする「本社の意向最優先」に苛立つという典型的現象です。

 しかし、このボイコット問題が起きる前に、その不満が鬱積していることを示す兆候があったのです。それはオランダ人社員同士の間で、駐在員の給与が話題になり、自分たちに比べ、高待遇の日本人たちが、それなりの働きをしていないという批判が起きていたことでした。

 実は、その話が日本の駐在員の耳に入ったのは、3か月も前のことでした。私は、たまたま人事担当の日本人駐在員と食事をする機会があり、その話を聞かされました。私は、すぐにでも個別にオランダ人のマネジメントクラスからヒアリングを行い、何か不満がないか聞いたほうがいいとアドバイスしましたが、彼をそれを放置していたことが後から分かりました。

 その後、日本人側との関係は1年以上、修復されず、半数以上の優秀なオランダ人は会社を辞めていき、深刻な危機に陥ったそうです。

 世界の多くの国々では、その個人の能力と成果に応じて給与が支払われています。日系企業もナショナルスタッフの雇用では同じような考えを持っています。しかし、駐在員はそうともいえません。そこでナショナルスタッフは自分たちは厳しい査定を受けているのに日本から来ている人間は、その対象外で身分が保証されているのはおかしいという疑問も湧くわけです。

 その駐在員が非常に有能なら、納得も行くし、現場からのフィードバックを重く受け止め、優れたリーダーシップ、マネジメントを行っていれば問題はありません。しかし、現地で優秀な人材を集めると彼らの目は厳しいものがあります。

 駐在員たちは通常、住宅が保証され、水道光熱費も会社によって支払われ、自動車も支給され、子供の教育費も支払われています。現地で高額のインターナショナルスクールに子供が通うのも可能ですし、現地に進出している日本の高額な塾に通うこともできます。出産費用が高額なアメリカでも全額会社負担という場合がほとんどです。

 家族で住み、長期に海外で働くわけですから、それくらいのインセンティブがあるのは当然という考え方で、それなりの高給が支払われています。過去には企業によっては5年海外に駐在したら家が建つといわれた時代もありましたが、今はそうでもありません。ナショナルスタッフも駐在員の高待遇の理由は、頭ではわかっているのです。

 しかし、会社への不満がたまってくると、それは不快感に変わっていきます。「大したマネジメント能力もないのに高給を受け取っている」「生活費も会社丸抱えでわれわれの働いた収益から支払われている」などという批判が出るようになります。

 こんな話が社内でよく聞かれるようになったら、その会社のマネジメントはうまくいっていないということです。中にはベトナムやマレーシアで日本から送られた支社長が連日ゴルフ三昧で会社に顔を見せることもないケースもありますが、ナショナルスタッフのモチベーションへの悪影響は必至です。

 もう一つのマネジメントのまずさを表す兆候は、ナショナルスタッフが保身に走ることが多くなることです。そういうと海外で働く多くの日本人駐在員は、ミスを認めない、誤らない、言い訳を始める、人のせいにするナショナルスタッフの山だというかもしれません。

 彼らが保身に走る理由は、自分への評価が給与を決定し、場合によっては解雇に繋がるという事情もあるからです。ミスを組織で吸収する日本と違い、個人評価が基本の場合は、ミスはあくまで個人のものとして扱われます。たとえば英国企業には「3回目のミスは認めない」というルールを採用している場合が多く、解雇に繋がります。

 そのため自分を評価する上司への言い訳や責任転嫁といった保身的態度も増えるわけです。しかし、何に対しても保身的態度が蔓延する職場は、上司がどのような考え方を持ち、どんなルールがあり、何を評価基準にしているか見えておらず、さらにはコミュニケーションもうまくいっていない場合がほとんどです。

 ですから、何かとナショナルスタッフが保身的態度を取る職場は、マネジメントはうまくいっていないことになります。多くに日本人駐在員が「インド人は言い訳ばかりする」「ドイツ人はすぐ責任転嫁する」という話を聞きますが、適正なマネジメントが行われていないケースも少なくありません。

 まずはリーダーは命令者ではなく、部下の支援者という意識を持ち、彼らの声に耳を傾けることや、目に見える形で意見が職場に反映されるように努力することが重要でしょう。優れたリーダーは聞き上手なのは世界中同じです。

 彼らの主張を聞いていたら収拾がつかなくなるので、聞かないようにしているという話も聞きますが、それは説得力のある決定が下せないリーダーの力量の低さを表したものです。

 黙っていても上司が尊重され、担いでくれる日本と違い、上司に忖度しないナショナルスタッフのモチベーションを高め、結果を出し、彼らの信頼を勝ち取るのは容易ではありませんが、それが本当の意味でのリーダーシップ能力を向上させることに繋がり、自分のスキルアップにもなるということです。

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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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