ダイバーシティの良さを強調しながら無意識に同じ色に染め上げようとする矛盾

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 スタイルシフトという言葉があります。自分の慣れ親しんだ環境とは異なったところで、意識するかしないかに関わらず、内外の自分に身についた慣習や価値観、つまり、従来のスタイルが新しい環境に順応するためにシフトすることを意味します。

 今、日本のテレビで「世界の村で発見!こんなところに日本人」という番組が放映され、長く続いているところを見ると、それなりの視聴率を稼いでいるのでしょう。私自身も海外が長いので、世界中でさまざまな日本人に出会いますが、たとえば日本企業や公的機関は、現地に長く住む日本人を採用するのに注意しています。

 昨年夏から今年初旬にかけて、日仏友好160周年の記念イベントが多数フランスで開催されました。その時、フランスに20年以上住み、フランス語も流暢な日本人がイベントに貢献できると期待しました。ところがそうならなかったと落胆した人を何人も知っています。

 企業も現地採用の日本人に対する扱いは、あくまでその国のナショナルスタッフと同じ扱いで、フランスや英国、ドイツであれば、日本と違い、労働者の権利を主張する日本人が多いので、日本から派遣された日本人とは完全に分けて働いてもらっているケースをよく見かけます。

 たとえば、日本では組織への忠誠心、上司への忖度、その場その場の空気を読みながら、暗黙の了解で仕事を進める慣習がある会社は少なくありません。ところが外国に長い日本人には、そのようなマインドを重視する習慣がない場合が多く、むしろそのような企業文化を嫌って海外に飛び出した人も少なくありません。

 さらに海外に長期に住む日本人の多くは女性で、その国の人と結婚している場合が多く、家の中も日本とは違うルールがあります。日本人妻が残業していると、夫は「そんな会社やめてしまえ」などといいます。妻が自分の上司について「部長さんは短気だから、いつも仕事を急ぐ必要があるの」などというと「そんな人間は上司になる資格がない」などと夫がいったりします。

 さらに「私たちはチームだから、全員の仕事が終わるまでは帰れないのよ」などというと、夫からは「チームの仕事を時間内に終わらせるのはリーダーの仕事だろ」とか「日本人は家族に対する意識が低すぎる。それじゃ人生は組織のためだけということじゃないか」などと批判されます。

 その妻自信もその国に長くなれば、意識しなくてもスタイルシフトしています。特にアイデンティティがもともとはっきりしない日本人は、その影響を受けやすいのが特徴です。当然ともいえますが、中国に長く住む日本人は中国化し、ロシアに住む日本人はロシア化します。

 ところが、大陸や半島に住む中国人や韓国人は違います。世界のどんな田舎に行っても中華料理屋などを営む中国人を見かけますが、彼らはその国に同化していません。どこまでいっても中国人です。日本人と違い、中国人も韓国人もチャイナタウンやコリアンタウンを作り、自分たちの言語や習慣を守りながら生きています。

 同化することは悪いことではありませんが、中には日本的モラルを失う人もいます。日本人は通常、他人の目を気にしながら、自分の行動規範を保っている側面もあります。そのため海外では、その日本人の目がないので、旅の恥はかき捨てのようになり、失ってはいけないモラルを失うこともあります。

 つまり、その国に同化することで、日本の会社や公的機関からみて「使い物にならない」と判断するケースもあるということです。ところがこの判断は、別の問題を含んでいます。それは必要とされる多様性「ダイバーシティ」の導入の足かせになることです。

 外国に長年住む日本人は「同じ匂いがしない」として排除するのであれば、ダイバーシティと矛盾します。つまり、ダイバーシティといって女性や外国人を採用しながら、結局は目に見えない、言葉にならない日本村の掟に従う同じ臭いのする人間にしていくことを無意識に行っているケースが多いということです。

 それは日本の国内外で見られることです。ある中国に長い日本人駐在員は「中国から悪い影響を受けた変な日本人より、日本に憧れる現地の中国人を雇った方がずっといい」という人もいます。しかし、異なった考えや発想、働き方とのシナジー効果で、閉塞感のある日本の組織を変革し、起死回生を図ろうという心構えとは矛盾します。

 日本には優れた生産システムや品質管理、きめ細かいサービスなども多くあります。しかし、日本人にしか通用しないものもあります。多文化で大きな成果を出している国の成功例は、たとえば、ビジネスではアメリカ、文化芸術では20世紀前半のフランスがそうでした。

 ダイバーシティ効果は、それを活かす土壌を地道に作っていくことが重要です。それは日本のように文化的相似性が非常に強い国では、大変な作業です。女性や外国人を雇えばいいなどという安易な考えではダイバーシティ効果は得られません。彼らを自分たちと同じ色に染め上げようなという考えはもっての外です。

 今の日本は、海外から見れば、日本人として絶対に残すべき優れたものの世界的な価値を自覚できず、それらを軽視し、否定したりして失いつつあるように思います。逆にダイバーシティの導入で本当に変えるべきものも分からず、気がつかないうちに溶けだしているようにも見えます。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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