中国建国70周年 香港は英国が放った刺客か それとも怪物ドラゴンの餌になってしまうのか

光復香港時代革命,香港機場

 北京で1日に執り行われた習近平国家主席を中心とする中国建国70周年の国慶節を大々的にする祝賀する映像は、同じ日に香港で行われた抗議デモで、警察が至近距離で高校生に実弾を発射し、重症を負わせた映像と並んで世界に配信されました。30年前の天安門事件を封印した中国政府は、都合の悪い今回の事件も封印することでしょう。

 祝賀に酔いしれる北京市民は、街頭インタビューで「中国は今後、世界最強の国になる」「わが国の発展は中国共産党のお蔭だ」と、まるで政府のプロパガンダを教科書通り真に受ける市民の声が紹介されました。過去にない威力を持つ兵器を誇示し、70年間繰り返された日本の不当統治からの開放したのは中国共産党であり、あと一歩でアメリカを追い落とせると言わんばかりです。

 しかし、たかだか中国本土の人口の0.5%にしか過ぎない740万人の香港で高校生一人に警官から銃弾が発射されたことが、その70周年を祝う中国共産党の面子を潰した格好です。

 アメリカの保守系メディア、ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、「最初はトランプ氏をクレイジーな人物だと思っていたが、人権のために立ち上がって中国に挑んでいるのを見て尊敬するようになった」という20歳の活動家の声を紹介し、デモ隊が星条旗を掲げているのは「アメリカへの感謝の印だ」と指摘しています。

 トランプ米大統領は8月に記者団に対し、香港で「天安門事件のようなことが起きれば、中国政府と取引するのが非常に困難になるだろう」と語っていました。リベラル派のクリントンなら、無関心を装い見て見ぬふりをした可能性もあるとWSJは付け加えています。

 1日のデモは公式には禁止されたもので、香港でも盛大に建国70周年が祝賀さるはずでした。この70年の中国の歴史をみれば、人の命が歴史を変えることはありませんでした。なぜなら、共産党政府にとって人命や人権は、権力に隷属するものであり、独立した普遍性はないからです。

 そもそも1997年まで香港を統治した英国は、1984年の「中英共同宣言に定められた香港の高度な自治と市民の権利および自由が尊重されることが重要だ」という認識に立ち、約束された1国2制度の維持を望んでいます。香港返還時の欧米専門家の見方の主流は、香港が中国にいい影響を与え、やがて共産党一党独裁の社会主義体制を中国が棄てる日が来るというものでした。

 私は当時、フランスのビジネススクールで中国の専門家と共同で授業を持っていましたが、私から見れば共産化された中国とそれ以前の中国の違いも分らないほど、その教授は中国に無知でした。ロシアの正体は熟知しているヨーロッパですが、中国は遠い存在で「国民一人一人が豊かになれば、個人の選択の自由と権利を求めるようになり、社会主義体制はもたない」という考えが主流でした。

 しかし、個人の自由と権利を知っているのは香港市民だけで、中国政府は文化大革命や天安門事件の負の遺産を封印し、一党独裁体制を維持し、国民にその正当性を信じ込ませることに、今のところ成功しています。それは共産主義イデオロギーではなく、中国人の多くが持つ「中国が世界を治める」という中華思想、中華民族主義を中心に据えてきたからです。

 その妄想と狂気を最も実感しているのが香港市民ということなのでしょう。じわじわと締めつけを強める中央政府の圧力の中、1国2制度は危機に瀕しているという強い危機感があるということです。逆に中央政府にとってはデモ隊が要求していた逃亡犯条例改正案の撤回も屈辱的で、ましてや残り4つの要求を受け入れる可能性はないでしょう。

 高校生が実弾を浴びたことで、香港の抗議デモは第2段階に入ったといえます。実は世界中で政権を揺るがすのは、けっして大都市に政治的課題ではありません。ウクライナはロシアがクリミアを強引に併合したことでロシアは世界から制裁を受け続けています。日本も民主党政権の時に沖縄のアメリカ軍基地の辺野古移転問題を間違い、政権は致命傷を負いました。

 フランスでは、独立運動がくすぶり続けるコルシカ島が、政権の鬼門といわれ、サルコジ政権は痛い目を見ました。人口14億の中国からすれば、その0.5%に過ぎない香港は小さな存在です。しかし、中央政府の世界に誇ろうとした70周年記念式典に泥を浴びせる結果になりました。

 香港政府は8月、「将来がまったく見えない」という若者の批判に答える形で、さまざまな補助金措置を含む24億米ドル(約2580億円)の財政支出計画を約束し、懐柔政策に出ましたが、効果はありません。対話集会の役人の態度に当局への不信感が増幅され、デモ隊への当局の銃器を用いた対応も権力乱用としか映らず、高校生の被弾で闘争はますます激化するでしょう。

 ただ、WSJは「彼らの成功にとって最大の脅威は、米中貿易協議の合意の見通しかもしれない。トランプ氏が交渉を成立させれば、香港問題で中国を批判する意欲は弱まる可能性がある。香港デモ隊にとってのリスクは、世界が香港での対立への関心を失い、中国政府を強気にさせることだ」と指摘しています。

 香港が英国が放った中国の体制を変えさせる刺客なのか、それとも恐ろしい野望を抱いたドラゴンの餌になってしまうのか、実は日本を含め、世界が関心を持ち続けることが、結果を大きく左右するといえそうです。その意味でメディアの責任は重いといえます。

ブログ内関連記事
香港の抗議デモへの中国政府の対応を非難する英国と中国の舌戦は根底から中国への認識を変化させている
香港騒乱で浮上する社会主義と自由主義の衝突 経済戦争では終わらない領域に日本はどう対処するべきか
第2の天安門事件が懸念される香港の抗議デモ 北京のビジネスエリートたちはどう見ているのか
けっして成功とはいえない習近平の中国 ヴィジョンより見栄で眠れる獅子を起してしまったか




関連記事

プロフィール

artworks21

Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

カレンダー

04 | 2024/05 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

検索フォーム

QRコード

QR