IS指導者バグダディ容疑者死亡で高まる報復テロの脅威、主人を失った小悪魔たちの無秩序が恐ろしい

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 21世紀に入っても世界には様々な対立や紛争があり、治安を脅かしています。中でもイスラム過激派組織、イスラム国(IS)は後世に語り継がれる世界を危険に晒した悪魔といえるでしょう。この悪魔は非常に残忍で危険な聖戦思想をネット上で広め、驚く速さと繁殖力で世界を危険に晒してきました。

 IS指導者で最も中心的存在だったバグダディ容疑者が潜伏先のシリア北西部で米軍の急襲により26日、死亡したニュースは、翌27日の世界のニュースを独占しました。個人的にはISの捕虜とされバグダディ容疑者の性の奴隷となり、殺害された米国人人道援助活動家、ケイラ・ミュラーさんの顔が即座に脳裏に浮かびました。きっと急襲作戦を行った米デルタフォースの兵士たちも同じ思いだったでしょう。

 専門家たちは、ISが主導するテロとの戦いは転換点を向かえたと指摘しています。理由はカリスマ的存在だったトップの死亡で求心力を失ったからで、組織は崩壊する可能性があるからです。しかし、政治家たちは、高らかに勝利を歌っても、21世紀初頭に世界が生んだ最も野蛮で残忍なテロ集団に集った人間たちが普通の生活に戻ることは考えられません。

 私は西洋社会の中でISのテロに晒され、最も多くの犠牲者を出し、なおかつシリアやイラクの戦闘にIS中心メンバーとして戦闘員を西側から送り込んだフランスをウォッチし続けている者として、テロの脅威が終息するとは言い難い状況だと考えています。

 実はイスラム過激派は、さまざまな地域で集団を形成し、たとえば、アルジェリアでは1990年代初頭にイスラム救国戦線(FIS)の軍事部門だった武装イスラム集団(GIA)がアルジェリアだけでなく、フランスでもテロを実行しました。それがイスラーム・マグレブ諸国のアル=カーイダ機構 (AQIM)に変貌し、イラクの「イラクの聖戦アル=カーイダ組織」とも関係を構築しています。

 GIAにしろ、AQIMにしろ、トップが当局によって殺害されても集団は再編を繰り返し、活動を継続してきました。リーダーを失ったことで分裂することはあっても形を変えて盛り返してきたのがテロ集団です。

 イスラム聖戦主義の本質は、イスラム教国家建設にあり、かつて共産ゲリラが共産主義国家建設に向かって残忍なテロを繰り返してきたのに似ています。フランスでは貧困と差別に苦しむアラブ系移民の若者を中心にテロ組織のリクルートが行われ、ネット上でISは、軽いノリの戦闘ゲームを実体験できると宣伝し、イスラム教など縁のない若者をひきつけてきました。

 最近、トルコがシリア北西部のクルド人支配地域を軍事攻撃した時に、フランスのルドリアン国防相が「ISは再び台頭する機会を伺っている。ISは根絶などしていない」との見解を示しました。今回、バグダディ容疑者死亡を受け、ジョンソン英首相は、ツイッターに「ISという悪魔との戦闘はまだ終わっていない」と投稿しています。

 悪魔と呼ばれるテロ集団は、悪質な癌細胞に似ています。最初に見つかった臓器を除去するなり、放射線を当てて叩くなりすると、他の臓器に転移し、衰弱した体に栄養を与えれば癌細胞も元気になり、抗がん剤で体が衰弱すれば免疫力をなくし、癌細胞は体をさらに蝕む可能性があります。つまり、繁殖に逃げ場がないという点でテロ集団の性質と似ています。

 バグダディという悪魔の首領を失ったIS、あるいはイスラム国建設をめざす集団は、悪魔の部下たちが、それぞれの聖戦思想への理解と動機で、分裂と統合を繰り返しながらも、癌細胞として死滅することはないだろうということです。人間が抱える「強い恨みや葛藤」さえあれば、彼らはそれを利用して野蛮で残忍なテロリストをどこからでも調達できるということです。

 ここしばらくは、失った首領への思いから報復テロでまとまる可能性がある一方、指導部が分裂を始める可能性もあります。しかし、また、次のカリスマ的指導者が生まれる可能性は否定できません。この報復テロはテロ組織内部の再統制と対外的に存在感を示すという2つの目的で実行される可能性は高いとみられます。

 それが中東地域なのか、それともヨーロッパやアメリカなのかは分かりませんが、IS掃討作戦に関与した全ての有志連合の国々が対象です。すでにトルコがクルド支配地域を攻撃した時に、IS捕虜が混乱に乗じて逃走しており、特にフランスなど欧州国籍者が今後、自国に戻ってテロを実行する可能性も高まっているといえます。

 それに最近のテロは、ホームグロウン型のローンウルフといわれる聖戦思想に染まった個人が組織の支援なしに個人でテロを実行することが増えており、バグダディ容疑者を神格化するローンウルフが勝手に、無秩序にテロを実行するリスクもあるといえます。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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