ゴーン被告に安全な場所などない 正当性主張のための国外逃亡の代価は大きい

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  レバノン・ベイルートのゴーン被告がいると思われる自宅(ARAB news)より

 日本を無断出国し、レバノン政府に保護されていると思われるカルロス・ゴーン被告の次の一手は、日本の司法の制約を受けずに思う存分、日本の司法の不当性と自らの無罪を主張することでしょう。国際世論を味方につけてしまえば勝算ありと踏んでいるかもしれませんが、読みは甘いといえます。

 2017年から2018年には自動車生産台数で、独フォルクスワーゲンを抜いて世界トップ(2019年上半期は3位に転落)に躍り出た日産・ルノー・三菱自動車連合を束ねていたゴーン前会長は、倒産寸前の日産を建て直し、20年に渡り、難しいといわれる国際アライアンスを継続させた押しも押されぬグローバルリーダーの鏡のような存在でした。

 ブラジル生まれのレバノン難民のゴーン被告は、フランスで高等教育を受け、世界トップ企業を率いるリーダーにまで這い上がった人物です。ブラジル、レバノン、フランスのパスポートを持って世界中を飛び回るグローバル時代の「時代の寵児」と持て囃されました。

 しかし、たたき上げのビジネスマンが読む世界には限りがあるようです。私は何人か彼に似たビジネスマンを知っていますが、彼らの金儲けに対する集中力は想像もつかないものがありますが、政治や他の社会状況には疎い場合は少なくありません。差別ではありませんが、特に恵まれない環境から這い上がってきたたたき上げの人間にある特徴でもあります。

 たとえば今回、レバノンの弁護士グループが、同国で禁止されている敵国イスラエルに出入りしていたとしてゴーン氏を訴えたニュースが流れました。事実かどうかは別にして、超過激な反イスラエルの過激組織、ヒズボラを抱えるレバノンでは、ビジネスであってもイスラエル渡航はできません。事実だとするとレバノンでは15年の実刑判決が下る事例です。

 さらにチュニジアのジャスミン革命で始まった民主化を求めるアラブの春はレバノンにも及んでおり、権力者の汚職を嫌悪する世論が高まっています。そのため企業経営者として汚職に手を染め、今回もなんらかの大金が動いてレバノン政府の協力のもとで日本から逃亡したゴーン被告への批判の声も高まっています。

 レバノンは、基本的にけっして安全な国ではありません。隣国シリアとの対立もあり、2007年には同国一部を占領するシリア軍の撤退を推進していたラフィーク・ハリーリー元首相がテロ攻撃で殺害され、2009年には爆弾テロで反シリア派の先鋒、ワリード・アイド議員らが殺害されました。

 南部にはイスラエルと対峙するヒズボラが存在し、1975年から1990年にかけて断続的に発生したレバノン内戦で疲弊した経済は、今でも復興したといえず、シリア内戦に深く関与した過激派組織、イスラム国(IS)戦闘員の逃げ場所にもなっており、治安もいいとは到底いえません。

 レバノンには18の宗派が存在し,各宗派に政治権力配分がなされ,バランスを保っています。しかし、各宗派内にも対立があり、ゴーン被告をサポートする側の政府も一枚岩と到底いえません。つまり、レバノンは腰を据えて世界に自らの正当性を発信する基地としては物理的に安全とはいえない国です。

 たとえば、妻のキャロルさんはレバノンの自宅から出入りする映像が報じられていますが、どんな護衛がついていたとしても、過激派組織が資金確保のために富豪の妻として誘拐し身代金を要求するかもしれません。腐敗を嫌い、民主化をめざす若者や反イスラエルの過激組織などゴーン被告も敵は少なくありません。

 だからといってフランスに逃げても、国民の支持は得られないだけでなく、ヴェルサイユ宮殿での超贅沢な結婚パーティーを同宮殿に寄付するルノーへの利益供与で賄った容疑で訴えられています。フランスのモンシャラン欧州問題担当副大臣は今月3日、ゴーン氏がレバノンに逃れたことについて「レバノン・日本間の問題でフランス事案ではない」ことを強調しました。

 ルノーの筆頭株主で日産との経営統合をめざすフランス政府としては、すで切ってしまったゴーン前会長が日本との関係を悪化させる問題を今になって持ち込まれたくないというところでしょう。それにフランスの世論は「ゴーンはフランスで高等教育を受けたが、レバノン難民の悪い面が出てしまった」と嫌悪感を露にしています。

 頼みとする中東も不当な資金が中東の外部コンサルタントに渡った背任罪で訴えられており、石油の上客である日本との関係を壊したくない中東諸国がゴーンを保護するとは思えません。

 つまり、なんでも金で問題解決してきたゴーン被告にとっては、金だけではどうすることもできない状況に取り囲まれている。国際刑事警察機構(ICPO)から国際指名手配を受けたゴーン被告は、持ち前の闘争心で生き残ろうとするでしょうが、身の安全を含め、金だけで安全を確保できる場所はないといえます。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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