パリのアジア系襲撃事件多発、中国の大国化が思わぬところに影響か

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   春節を祝うパリの中国人コミュニティ

 フランス国籍を持つアジア系住民といえば、最も多いのが華僑と呼ばれる20世紀初頭までに世界に散らばった中国人たちで60万から70万人がフランスに住んでいるといわれています。彼らはフランスに住み着いて長いので正確な人口調査ができてるわけではありませんが、欧州最大規模です。

 この数は、これも欧州最大規模のユダヤ系コミュニティーが華僑と同じ位の60万人いるといわれますが、ユダヤ教では特別な理由なしに人口調査できないので正確には分かりません。加えてアルジェリア、チュニジア、モロッコなど北アフリカ・マグレブ諸国の出身者が旧宗主国フランスとの関係から約600万人も住んでおり、これも欧州最大規模です。

 つまり、フランスには欧州最大規模の中国系、ユダヤ系、アラブ系のルーツを持つ3つのコミュニティが存在する多文化社会なのです。彼らは時に共存し、特に対立しながら生きてきたわけですが、ユダヤ系とアラブ系は、同じ旧約聖書を共有するユダヤ教とイスラム教の背景を持ちますが、中国系は彼らと文化的、人種的共通項のない東洋人です。

 国立経済統計研究所(INSEE)によれば、フランスには中国生まれの中国人107,000人、彼らから生まれたフランス系中国人は32,000人としています。彼らは文化大革命や天安門事件の政治亡命者以降の人々で、1990年代広範にはより豊かな暮らしを求める経済難民も増えています。

 そこにアジア系では、ベトナム戦争やカンボジア戦争で旧統治国としてフランスが受け入れたベトナム人、カンボジア人、ラオス人が加わっています。つまり、華僑という中国系の人々に加え、半世紀前から新たなアジア系移住者がフランスに住んでいるわけです。

 そんなアジア系住民に対して「アジア人は金持ちだが、ひ弱なので襲いやすい」というイメージが定着したのは、今から10年位前で中国人が多く住むパリ19区と20区にまたがるベルヴィルで、中国人が経営する中華料理屋、宝石店、鞄店、両替店などがアラブ系の若者によって襲撃される事件が頻発したころからです。

 それは中国が経済大国になったことことも関係しています。アジア系といえば、2万人前後の日本人が住んでいますが、まず、他のアジア系と違い群れることはなく、治安のいい高給住宅地の16区や15区、西郊外のブローニュ=ビアンクールなどに住んでおり、他の移民との遭遇頻度は多くありません。

 ところが華僑を含め、他のアジア系はアラブ系住民が住むパリ東部や東や北の郊外の貧困地区に固まって住んでいます。中国が大国化するに従って「金持ちがわれわれと同じ地区に住んでいる」と理解するようになり、彼らの持ち物を奪う行為が増え、今では年間100件以上、3日に1回の頻度で被害が報告されています。

 華僑は出身別では、浙江省東南部出身が35万人、広東省東部が15万人、中国東北部が10から15万人と見られ、商売に長けた浙江省東南部出身の多くはビジネスを成功させ、実際に富裕層も多いといわれています。

 彼らが昔住み着いた3区のパリ工芸博物館周辺は地価が上がりすぎ、今は中華食品店が最も多い13区のプラス・ディタリ周辺、さらにベルヴィル界隈、フォブール・サンマルタンやクリメなどにも居住地が拡がっています。ただ、パリ市内に居住する中国人は全体の14%にしかすぎないといわれています。

 いずれにしても、フランスのアジア系コミュニティーを取り巻く環境は、中国が大国化するに従って軋轢をもたらし厳しさを増しています。彼らは最近、増えるアラブ系の窃盗グループの標的にもなっており、急増する中国人観光客がブランド品を携行し、現金を持ち歩き、高額買い物ができるクレジットカードを持っていることも襲撃される理由になっています。

 問題は、アフリカ系を含むフランス人には、中国人、ベトナム人、カンボジア人、日本人の区別がまったくつかないことだ。まずは襲われた時のことを考え、貴重品はなるべく持ち歩かないこと、絶対に抵抗しないことです。死傷した中国人の多くは抵抗により暴力を受けています。犯行は人通りの少ない場所で実行されるので、人気のないところに絶対行かないことも重要です。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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