怪しげで危険な東アジア共同体構想

すでに18年間以上、欧州連合(EU)の動向を地元で取材してきた者として、鳩山首相の東アジア共同体構想の内容のなさが目についてなりません。EUの共同体構想は2つの世界大戦から引き出された教訓、さらにはヨーロッパが抱える爆弾ともいうべきドイツの封じ込めが統合の原動力となったことは一般的にも知られていますが、それ以前から領土や権力をめぐる闘争も大きく影響しています。



 



ヨーロッパは同じキリスト教文化圏とはいえ、つねに闘争を繰り返し、その闘争はアフリカなどの植民地獲得でも熾烈な競争を展開したほど、列強国同士の勢力争いに明け暮れた歴史でした。そして最後に20世紀の2つの大戦で戦場となり、多くの犠牲者を出し、2度とヨーロッパ大陸を戦場としないという強い決意が、経済共同体構築を支える動機となったわけです。



 



その統合は27カ国に拡大し、統一通貨ユーロの導入、リスボン条約の批准でEUの顔となる大統領(議長)と外相を決める段階に入っています。経済統合はリーマンショックの試練も越えながら、政治統合に向おうとしています。防衛体制でもアメリカ頼りの北大西洋条約機構(NATO)だけでなく、欧州独自の防衛軍の創設を急いでいます。



 



ですが、そこにいたる過程は、高度なプロフェッショナルの欧州官僚たちと、民主主義を成熟させてきた加盟各国の並々ならぬ努力があったらばこそで、何度も危機的状況に遭遇しながらも、「大人の判断」を下して乗り越えてきた結果でもあるわけです。



 



東アジア共同体に懐疑的な人たちは、ヨーロッパのような共通するキリスト教文化圏が存在しないことや、国家の経済格差、政治体制の違い、領土をめぐる歴史的な対立などを上げていますが、EU内も言語も違えば、文化も相当異なります。経済格差も英仏独と旧中・東欧諸国の格差は大きく、過去の闘争の歴史は、東アジア以上かもしれません。



 



東アジア共同体作りを最も困難にしているのは実は、中国や北朝鮮、ミャンマーなどの独裁政権の存在だと私は見ています。特に中国は共産党一党独裁体制を一方で取りながら、外資を積極的に受け入れ、あたかも資本主義を受け入れているようなポーズを取って、欧米諸国を騙している事実は深刻といわざるを得ません。



 



アメリカは東アジア共同体構想をアメリカ抜きで進めることを警戒しているのは当然で、実は、この構想こそ、中国がアジア支配の明確な目的のために画策している戦略であることを見過ごすべきではないということです。EUは例えば、ロシアが入ることを希望しても拒否するでしょう。



 



鳩山構想は、アジアが置かれている現実とはかけ離れたものであり、無知で危険極まりない夢想です。アジアの冷戦は終わっておらず、共産主義とイスラム原理主義の独善の危険にさらされています。その一方でアメリカのグローバリズムの独善の信頼が失墜し、実は21世紀は、これらの独善性を脱する新しい枠組みづくりに必死に取り組むことが必要で、友愛精神などなんの役にも立たず、平和ボケを象徴したフレーズとしか思えません。


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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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