人種差別排除で浮上したCSV 持続可能なグローバルビジネスに欠かせないダイバーシティマネジメント

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 アメリカは人種差別問題は、今や多民族、多文化社会を抱えるすべての国に抗議デモが拡がっています。特にマイノリティーが強い不満を持つのは日常生活以上に死活問題となる職場での差別です。つまり、全てのグローバルビジネスに関わる問題でもあります。

 今、アメリカで起きていることは、アメリカという国の特殊な事情によるものではありません。コロナショックで内向き志向が強まれば、多民族社会が意味をなさなくなるとか、弱体化するというわけでもないはずです。人種差別は、いわばコロナ禍があぶり出した世界的にも改善が必要なテーマの一つです。

 欧米の主要経済紙を見る限り、主要企業および投資家のほとんどが、構造的な人種差別や、意図的に生み出された格差に責任があることを認めています。特に、最も被害者とされる黒人が味わっている苦痛に対しては無関心を装う一方、白人が恩恵を得ている実態も指摘されています。

 アメリカで人種差別が顕著に見えるのは、掲げている国家の理想が高いからです。たとえばベルリンの壁が崩壊した後、東ドイツ市民を仕事に就かせるためにトルコ移民の追い出しをドイツ政府は行いました。その時「わが国は多民族国家ではないので、トルコ人には出ていってほしい」と当局者が言ったことを思い出します。

 人手不足で受け入れたトルコ人たちは、すっかりドイツに定着しており、なかなか出て行きません。彼らに対して旧東独のネオナチたちがトルコ人の店や住まいの放火を続け、今でもトルコ人差別は続いています。2015年以降100万人のシリア難民を受け入れたドイツでは差別に堪えられずシリアに引き返す人々が後を絶ちません。

 ドイツ人はいいます。「シリア人はドイツの法律を守らない」「彼らはイスラム教の価値観がドイツの価値観の上にある」と。ちょうどアメリカの白人警官が法律を守らない黒人たちに厳しいのと似ていますが、民族国家でないアメリカでは、一旦アメリカ市民になった人間を国外に追い出すことはできません。

 いずれにしても、アメリカでは少なくとも企業が人種平等を実現するためのアジェンダに本気で取り組もうという動きがあります。それもコストをかけた取り組みを行う企業もあり、彼らは社会的批判をかわすためだけでなく、民族や人種のダイバーシティ効果をプラスに考えているともいえます。

 それは、今注目されている共通価値の創造(CSV)という考え方に基づくものです。1990年代にハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授とマーク・R・クラマー研究員が提唱したCSVは、企業が経済条件、社会状況や課題を改善し、新たな価値を想像することにより、企業自体の生産性も高まり、長期的な企業利益をもたらすというもので、今でいう持続可能な社会実現にも繋がる考え方です。

 日本では古くから近江商人の哲学である「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という「三方よし」の考えがあります。3番目の社会貢献が企業は公的責任と不可分という考えで、CSVに近いという人もいます。

 しかし、CSVは社会的責任を担う企業が実践するCSRとは意味が違います。CSRは企業が得た利益を社会に還元する意味合いが強いわけですが、CSVはもっと本質的に会社自体が社会の要請による新たな価値を想像するため内部から改善に取り組むことです。実は私がフランスのビジネススクールで教鞭をとりはじめた1993年、すでにフランスのビジネススクールはCSVに注目していました。

 公益性を重視するフランスでは、CSVはCSR以上に共感するものがあったからです。そしてこれは今、コロナ禍のニューノーマルにとって非常に重要な考え方といえます。同時に社会主義の脅威に晒されれる世界が民主主義を強化するためにも真剣に取り組むべきものだと思います。

 今回の人種差別問題でいえば、人種差別がいかに非人間的行為かを学ぶ研修を実施するとか、採用から人種差別を徹底排除すること、人種だけでなく男女差を含め、評価を透明化し、給料格差を完全になくすこと、従業員のフィードバックを重視し、改善に役立てることなどが挙げられます。

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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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