欧州多国間主義に忍び寄る中国 対米戦争で欧州を引き寄せたい中国の必死の外交攻勢は不発?

eu-china flag

 米中対立が貿易レベルを超え、統治システムという中国が死守したい社会主義独裁体制や覇権主義批判に踏み込む段階に入ったことから、グローバルビジネスへの影響が危惧されています。そこで中国は、今だ国際社会で発言力を持つ欧州を味方につけ、米国との戦いを有利に進めたようという姿勢が露骨です。その鍵を握るのが多国間主義です。

 9月25日から欧州5ヶ国を歴訪した中国の王毅外相は、米国と1線を画す欧州連合(EU)が最もこだわる多国間主義に対して強い支持を表明し、価値観を共有していることを強調しました。一方、新型コロナウイルスの感染拡大で台所事情の苦しいEUの足元を見透かし、年末までに中国との投資協定妥結を促しました。

 王外相は欧州歴訪4ヶ国目のフランスで「憎しみと対立を煽る一方的な主義主張こそ国際秩序を脅かす課題」とスピーチし、暗にトランプ米政権を批判。EUの掲げる多国間主義こそ、中国が完全に共有できる価値観だと繰り返しました。

 同外相は28日、フランスのマクロン大統領と会談し、同大統領は香港の民主化抗議デモや新疆ウイグル自治区のウイグル族への弾圧について、中国政府のこれまでの人権面での対応に懸念を表明しました。このような批判は同外相にとって折り込み済みの話題だったといえます。

 同外相は30日、仏国際関係研究所での演説で香港国家安全法制は香港の混乱を終わらせるためであり、ウイグル自治区のイスラム教徒を中国国内では職業訓練しているだけで、ウイグル族はすでに収容所にいないと述べ、不適切な批判と一蹴しました。

 中国の戦略は、EUとの経済関係を強固なものにすることでEUが米国の主張に耳を傾けないようにすることです。パリのシンクタンクでの王外相の講演では、2020年末までにフランスを含むEUとの投資協定が実を結ぶことを期待すると述べ、欧州歴訪の最大の目的がそこにあることを明確にしました。

 王外相は、中国にとって最大規模の貿易相手先であるEUに対して「中国と欧州は協力パートナーであり、競争相手ではない」ことを歴訪先の5ヶ国で何度も強調しました。しかし、この歴訪は欧州がウイグル族と香港への横暴を許さないことを王外相に思い知らせ、冷たいを受けたといえます。

 もう一つの注目点は、3番目の訪問国だったノルウェーで8月27日、ノルウェーのスールアイデ外相と共に記者会見に望んだ王外相は、香港の民主派デモに関する質問に「ノーベル平和賞を誰かが政治利用するのを見たくない」と不快感を示しました。

 さらに「過去も現在も将来も、誰であれノーベル平和賞を使って中国の内政に干渉するいかなる試みも断固拒否する」と述べ、香港の抗議デモ参加者にノーベル平和賞を授与しないようくぎを刺しました。傲慢とも言える王外相の論点そのものが、ノーベル賞を政治化している矛盾に満ちたものでした。

 王外相は25日~9月1日の日程でイタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツ歴訪。イタリアは昨年、中国の広域経済圏構想、一帯一路への参加に欧州で最初に署名した国で、王外相は25日「好スタートを切った」と評価、翌26日にはオランダのハーグでルッテ首相と会談し、両国関係を強化することで合意しました。しかし、欧州メディアはほとんど取り上げていません。

 王外相の前に訪欧したポンペオ米国務長官が「中国はロシアより大きな脅威だ」と警告したことを強く牽制する歴訪だったことは明白です。ただ、EUは現在、中国に対しては警戒感を強めており、王外相の主張にも経済関係強化についてもは米国の警告を待つまでもなく慎重な姿勢を崩していません。

 実は王外相が何度も言及した多国間主義では、日本もEUとの関係強化のために昨年2月に発効した日・EU経済連携協定(EPA)、戦略的パートナーシップ協定(SPA)の中核をなす価値観でした。多国間主義は東西冷戦後、アメリカの一人勝ちによる一強支配を脱し、世界の全ての国が互いの違いを認め合い、均衡を保って共存する国連の考えに沿うものです。

 しかし、その考えは世界支配の野望を持つ国や武力を用いても他国を支配したり、領土拡大しようとする国に対しては無力です。事実、北京オリンピックの時にロシアがジョージアに軍事侵攻し、そのロシアは武力でクリミアを併合、イスラム国のシリア・イラク支配も起きました。

 結果、多国間主義で最も重視される均衡を保つ意味で脆弱な理想主義で、野望の渦巻く世界の現実とはかなり乖離したものです。その理想を共有することを今回強調した王外相の中国は、世界で最も均衡を破る国であることは誰でも知っており、自由貿易と並び覇権主義の野望を隠すベールだということです。

 日本は自国第一主義を掲げる米トランプ政権と多国間主義の欧州の間で立ち位置は微妙です。問題が発生すると米国に頼むしかない世界の現実もいまだ変わっていません。実は欧州は多国間主義とはいいながらも自由と人権という譲れない価値観も持っており、日本はどこまで、そのような価値観を持っているのか問われています。

ブログ内関連記事
安倍首相辞任と日本の存在感 日本を頼りにしている国は非常に多い
米国との差を縮める中国 コロナ禍が追い風の中国を抑えたければ自由世界の団結しかないはず
自由主義を守るG7の本当の使命 中国封じ込めではなく何を守るかのコアバリューの闘い 
ファーウェイ排除の米英仏 ポンペオ米国務長官の民主国家結束で中国封じ込めの鍵を握る日独




関連記事

プロフィール

artworks21

Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

カレンダー

04 | 2024/05 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

検索フォーム

QRコード

QR

コメント

非公開コメント