ワークライフバランスの危機 リモートワークがプライベート生活を脅かす

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 パリなど9都市で夜間外出令が出たフランスですが、米系大手物流サービス企業に勤める友人のブノア氏が2週間前に新型コロナウイルスに感染しました。40代の彼は20年以上トライアスロンを趣味にしており、自宅隔離期間中もピンピンとしていて、すでに会社に出社しています。

 彼は夏のヴァカンス前はリモートワークだったのですが、ヴァカンス明けの9月からは出社していました。会社からはリモートワークを提案されたそうですが、その提案を拒否し、パリ西郊外の自宅からパリ中心部に通勤していました。

 営業一筋で生きてきたブノア氏は、エリート教育で知られるパリの理系グランゼコールを出て以来、今の会社が3社目。2回の転職理由は上司と揉めたことが原因ですが、会議の嫌いな彼は管理職より、営業職を貫くつもりです。米系企業なので上司はアメリカ人ですが、働き方については気に入っているそうです。

 「アメリカ人は1日を2回楽しんでいる。早朝7時にはオフィスに来て仕事し、4時には退社し、4時以降はプライベートでさまざまなメニューがある」といっています。アメリカ留学経験もある彼は、アメリカ人の生産性が高く合理的に働くことを気に入っているようですが、それでも上司とはいつも揉めているところは変わっていません。

 フランスの労働法は社員にテレワークをさせるには社員の同意が必要で、リモートワークを拒否しても解雇はできません。無論、同じ労働法の中には「不可抗力な外的要因が起きた場合は、企業は事業の存続と社員の安全を優先する」とあるので、会社がリモートワークを強制したり、逆に社員が自分の安全を主張してリモートワークを選んだりすることも可能です。

 友人は9月以降、リモートワークを拒否し、職場に通っていたのがコロナで陽性反応が出たため、自宅隔離になりました。自宅隔離中、仕事を継続する義務はないので一切仕事はしなかったといっています。そもそもリモートワークを拒否した理由がフランス人らしいのです。

 彼曰く、「リモートワークをしてみて不快だったのは、自宅に仕事を持ち込み、プライベートな時間がかき乱されたことだ」と。仕事とプライベートをきっちり分けるフランス人にとって、自宅のパソコン画面の向こう側に上司や同僚、クライアントの顔があるとストレスが溜まるというわけです。

 フランスの現在の労働法は全て「職場にて就労することをベース」に定められており、リモートワークの合間に「スポーツジムに行ったり、子供の学校の送り迎えをしたり、ガーデニングをすること」は想定されていません。政府はコロナ感染再拡大でリモートワークを奨励していますが、現在リモートワークをしている人の割合は全労働者の約15%程度で、ロックダウン時だった4月でも24%でした。

 友人は「リモートワークしていると自宅にいる自分が会社に監視されているようで、居心地が悪かった。上司が自分を信頼していないと感じ、不快だった」といいます。それにパリやその周辺でアパート住まいしているフランス人の多くは、アパートに書斎はないので、公私が分けにくいダイニングルームやリビングのソファ、人によってはベッドルームを使うしかない実情もあります。

 会社側もリモートワークで生産性が上がっていないと訴える労務管理担当者も少なくなく、社員の管理に苦慮しています。ブノア氏は「本当に会社がテレワークを強制するなら、もっと郊外の書斎のある一軒家か、転職しかない」とまでいっています。

 7月下旬にフランス国立統計経済研究所(INSEE)が携帯電話の位置情報から割り出した調査の報告書によれば、3月、4月、5月のロックダウン(都市封鎖)中、パリ市内に居住、滞在した人は、外出制限前と比較して平均で451,000人も少なくなり、そのうち半数はパリを脱出したパリジャンだったとされています。

 別のパリ不動産組合の調査では、パリを脱出したパリ住民の中で、生粋の代々、パリに住むパリジアンの占める割合は少ないという報告もあります。

 リモートワークでいいなら、通勤圏内に住む必要はないという場合、子育てだけでなく、広い家でないとプライバシーが保てないという理由もあるということです。最初は朝晩の満員電車に乗る苦痛がないことに喜んだフランス人たちも、今では近所で貸し出しているリモートスペースを借りる人が急増しているという理由も分かる気がします。

 リモートワークは職種によって容易な分野と困難な分野がありますが、会社のために生きているという日本的感覚がない欧米社会でも、リモートワークの課題は多いといえます。

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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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