何百年も前の作品が現代に蘇る 普遍性を追求するルーヴル美術館の意義と行方

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 今年9月からパリのルーヴル美術館の初の女性館長に就任するロレンス・ロランス・デカール氏(現オルセー及びオランジュリー美術館館長)については、このブログにもすでに書きました。所蔵作品数といい、年間来館者が1,000万人という世界最大規模のルーヴルが彼女の手によってどうなるのか興味が尽きません。

 注目度が高いために様々なメディアに登場しており、彼女の考えに共鳴するものがあったので紹介したいと思います。ジャン=リュック・マルティネス現館長は「私たちは、より多くの来館者よりも、彼らをより良くもてなすことをめざしている」と述べ、その言葉通りルーヴル人気は高まりました。

 一方、デカール氏は今後のビジョンについて「私がやりたかったのは、“(時代を超えた)普遍的な美術館”とは何かを考えることです」「ルーヴル美術館は完全に現代的であり、過去の輝きを通して現在に関連性を与えることによって、過去について語っているようで、実は今日の世界に開かれています」と述べています。

 さらに「われわれには不安定な危機から抜け出し、刺激的で複雑な時代に生きていくための視点が必要です」「ルーブル美術館の館長に任命されて、私が最も課題とするのは若者のことです」とインタビューで語っています。

 私は、この普遍的な美術館というのは、芸術の本質をついていると思います。歴史の風雨を生き延びた名画の一つ一つは、時代を超えてわれわれに語り掛けてくるものがあります。ダヴィンチの「モナリザ」は、今でもルーヴルの宝です。ルーヴルに来て「モナリザ」を観ずして変える人はほとんどいないといわれています。

 ただ、残念ながら、その素晴らしさや絵画の価値が世界中の人々を引き寄せていいるのか、それとも多くの人々の頭の中で「すぐれた名画らしい」ということで観に来るのかといえば、多くの人は教養的に500年前の天才が描いた絵画ということで「見ている」場合が多く、決して「観ている」わけではないかもしれません。

 ある日本の著名な作家が、小さい時に自宅の階段を上がったところに「モナリザ」の複製が飾られていたそうで、それを不気味と感じた少年は、いつも階段を上がる時にその絵を見ないようにしていたという話を書いていたのを思い出します。

 「専門家がいいというから、いいのだろう」「まあ、一生に一度は観ておかなければ」というのが本音でしょう。それでも美術館の存在目的は大いにあるというかもしれませんが、せっかく、その時代を生きた人間の中で、波外れた感性を持った人間が残した作品と対話できるわけですから、そこでは時代を超えた普遍性を感じ取ることは重要だと思います。

 芸術もコミュニケーションの一つという意味で作品を通して、その感性豊かな人物と対話でき、美を共有できる時間を持つことができれば、素晴らしい時を過ごせることでしょう。音楽家は優れた聴覚を、美術家は優れた視覚を通して、その時の空気までも伝えるだけでなく、その感性は現代にも生きているという事です。

 デカール氏はコロナ後を見据え「芸術作品に出会うことは、窓を開け、別の感性に心を開き、自分自身を見つけることです。これが美術館で体験できることです」と彼女は熱く語っています。

 ド・ゴール政権時代にフランスを世界的な芸術の国に押し上げたのは、当時文化大臣で作家だったアンドレ・マルローでした。マルローは日本でも知られた文化人で、彼がフランス全土で推進した美術館、博物館、文化センター設置は、後の日本の文化会館乱立に繋がりました。

 マルローの死後45年が経つ今、美術館は歴史的な芸術作品を後世に伝える困難に直面しています。19世紀から20世紀初頭の近代美術を扱うオルセーはともかく、それ以前を扱うルーブルは現代と結びつけるのは至難の業です。今の若い世代には教養主義や権威主義は通じません。

 それに閉ざされた専門家にしか通じない説明では、意図は通じなくなっています。その一方で優れた芸術作品と触れる重要性は変わっていないのも事実です。かつてマルローは「文化センターは現代の聖堂だ」といい、神性を含む根源的なものと芸術作品の偉大性を重ねたマルローらしい持論を語っていました。

 しかし、当時、批判もありました。それは美術館という箱の中で作品は分類され、権威づけられることによって生きた芸術は死に追いやられるというものでした。かつては「よく分からないけど、凄い作品なんだろう」という権威と教養主義が美術館を支えていました。

 フランスの美術関係者は今、口を揃えて若者が美術館に寄り付かなくなったことを懸念しているといいます。日本でも美術館来館者の多くは高齢者か主婦です。

 若者が美術館に行かなくなった理由について『若者と美術館』の著者で美術館研究者のノエル・タンバール氏は「多くの場合、子供や青年は家族に連れられて行くか、学校の授業のプログラムで行くだけで、若者の意志とは無関係」と指摘している。

 つまり、美術館にいって名画に触れる意味が失われているという事です。しかし、優れた芸術作品は過去の遺物でもなければ、教養主義の道具でもないはずです。ただ、若者へのアプローチには工夫も必要でしょう。デカール氏がいう「刺激的で複雑な時代に生きていくための視点」を美術館で得るというのも新しいアプローチかもしれません。

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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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