自由主義を襲うポピュリズム 1部の有権者の感情に振り回される民主主義の脆弱さ

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 米ソ東西冷戦の終結で、自由と民主主義の価値観を共有する陣営は勝利に酔いしれました。共産主義国家という敵が存在することで自由主義陣営は自らのアイデンティティを明確化し、その正当性のために戦っていたのが敵を見失い、本当は相手が自壊したのに勝利したと勘違いしたと私は見ています。

 同時に自由と民主主義を支える健全な競争を保障する善良さや、多様な文化を受け入れる寛容さ、それに最も重要な謙虚さも自由主義陣営は見失ってしまいました。社会主義が経済発展できなかった理由は人間に本来備わった自由意思による選択や自己実現の欲望を否定し、特権を持つ権力が介入し支配したことでした。

 冷戦時代にベルリンの壁崩壊の3か月前に訪れた東ドイツで、小学校の時から職業訓練を行い、個人がやりたいことではなく、国の利益のために個人の人生を共産党が決めている実態を垣間見ました。

 彼ら権力者が恐れたのは、反体制勢力で徹底した情報管理を行っており、私がホテルにチェックインするとホテル側は当局に即座に報告していました。ライプチヒで壁崩壊に貢献した著名な指揮者、クルト・マズア氏から「この町の電話の普及率は16%、その電話も全て当局が盗聴している」と聞かされました。

 街に活気はなく、市民は死人の様でした。生き血を抜かれたような人間は、同じ年に訪問した旧ソ連のモスクワやレニングラード(現サンクトぺテルブルク)にもいました。

 中国は改革開放を行うことで資本主義を導入し、鄧小平は「金持ちになれる人間は先に金持ちになりなさい」といいましたが、自由を与えれば、共産党一党支配に疑問を持つ若者が急増し、天安門事件でいったん強権で彼らは抑え込まれました。

 鄧小平が知っていたかは確認の取りようはありませんが、もしかしたらマルクスレーニン主義が唱えたヨーロッパの産業革命以降の近代市民社会で貧富の差が拡大し、結果的に富める者による搾取が起き、富の分配による平等社会を実現する共産主義理論の正当性を、そのプロセスを経験していない中国人民に学習させるために改革開放を行ったという穿った見方もできます。

 経済成長の原動力は自由競争によって個人が自由に金持ちになれるシステムを導入し、グローバルな経済活動への風通しも良くなった一方、そこで集まった莫大な資金と技術にものを言わせ、中華思想を原動力に中国型社会主義による世界支配を画策する段階に入っています。

 それはまるで共産主義という強力なウイルスがソ連東欧・中国などの国家を支配した後、自由主義ワクチンによっていったんは駆逐されたのが、変異を繰り返し、姿を変えながら生き延びているようにも見えます。それも奢れる自由主義陣営の堕落に巧妙に忍び寄り、アメリカなどはトランプ政権になって初めてその脅威を発見したところです。

 自由主義陣営は今、多様な意見を自由に戦わせながら、時間を掛けてより良い方向に向かう忍耐を失い、排外主義による憎悪のキャンセリングカルチャーが蔓延するようになり、左右のポピュリズム政治家に熱狂的な支持者が集まる現象が起きています。多くの政党はこの流れに取り込まれようとしています。

 今回の北京オリンピックに集まった政府首脳のうち、ロシア(プーチン大統領)、カザフスタン(トカエフ大統領)、サウジアラビア(ムハンマド皇太子)、アラブ首長国連邦(ムハンマド・アビダビ首長国皇太子)、エジプト(シシ大統領)、パキスタン(カーン首相)など大半は専制主義国家や独裁体制にある国からの参加者でした。

 つまり、北京五輪は、自由主義陣営が最も嫌う専制主義の国は健在であり、彼らは習近平中国国家主席を中心に結束を確認する場になったわけです。

 今後、これらの勢力に対峙する自由主義陣営は、単に敵対勢力を敵視するだけでは到底、冷戦終結のようにはいかないでしょう。謙虚さや忍耐、公正で善良な競争社会、道徳的腐敗の排除を行い、巧妙な左翼ウイルスに対して免疫力をつけなければ感染を免れないと私は考えています。




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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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