モスクワ詣での欧州首脳 プーチンの手玉に取られる欧州のマンデートなき交渉が期待薄な訳

Putin_Macron 07022022

 北朝鮮のミサイル連発による瀬戸際外交をロシアのプーチン大統領も真似しているかのようです。中国や北朝鮮といった専制主義国家に続くロシアやイランは、同じ手法で緊張を高め、相手の譲歩を引き出そうとしています。それもウクライナ危機では米欧諸国が1枚岩でないことが見透かされているようです。

 今月7日にパリを出発したフランスのマクロン大統領は、36時間の間にモスクワ、キエフ、ベルリンを巡回し、プーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領、ドイツのシュルツ首相と会い、ベルリンでは駆け付けたポーランドのドゥダ大統領を交え、仏独ポーランド首脳で8日夜に記者会見を行いました。

 シュルツ首相はワシントンで就任後初となるバイデン米大統領との首脳会談を行い帰国したばかりでした。4月に大統領選を控えたマクロン氏は、ウクライナ危機で外交得点を挙げたいところで、キエフ訪問の折にはプーチン氏から緊張緩和の確約を得たと述べましたが、モスクワは即座に否定しました。

 鍵を握るモスクワでの仏露首脳会談は夕食を挟んで5時間に及び外交交渉の中身は公開されていませんが、外交成果をアピールしたいマクロン氏はポジティブな答えを引き出したといいたかったのでしょう。2014年のミンスク合意を口にしても肝心のウクライナのゼレンスキー大統領は信用していません。

 プーチン大統領の相手はあくまでアメリカのバイデン氏であり、欧州が相手ではないのも誰でも分かっていることです。プーチン氏にとっては米欧の分断、欧州諸国間の分断でウクライナのこれ以上の西洋化を阻止し、ロシアの影響下に置くために相手をねじ伏せるのが目的です。

 中国が台頭する中、東西冷戦の敗北で劣勢に立ち続けるロシアは、これ以上、影響力を弱めるわけにはいかないとの焦りがあります。とりわけかつての大国が経済力で世界支配を画策する中国の前に劣勢に立たされていることは、安全保障上の問題だけでなく、ロシア国民にとっても受け入れ難い惨めさを味わっていることが想像されます。

 ロシアはウクライナを巡っては2014年の内戦の渦中にクリミアを併合した過去があります。この実績は専制主義国家に大きな刺激を与えました。巧妙に仕掛けられた内戦の背景にはウクライナ東部に住むロシア系住民の存在が大きく、これは旧中東欧で似たような状況があります。

 ソ連崩壊後、次々に旧中東欧諸国はソ連を離脱しましたが、ソ連時代の政策で配下の国のロシア化が進められ、ロシア語の強要、ロシア人の移住などで離脱後もロシア語が健在な国は多く、東ドイツ出身のメルケル独前首相もプーチン氏とはロシア語で話していました。

 プーチン氏からすれば、まずは最大の交渉相手である白か黒かしかない原則外交のバイデン氏は、どこかで最後の一歩を踏み出せない弱腰が見透かされています。それはシリアでアサド政権が当時のオバマ政権が化学兵器を使用した場合の地上軍派遣を腰砕けで行わなかったことで、過激派組織イスラム国(IS)が台頭した過去があります。

 超内向きで人道主義の米民主党は、外交で毅然とした態度を取れないことで知られ、過去には失敗ばかり繰り返してきました。長期政権のプーチン氏はバイデン政権の口先外交、決断力の弱さも熟知しているはずです。

 そのアメリカと同盟関係にあるフランスは、アジア太平洋地域の安全保障の新たな枠組みの一つである米英豪の3国軍事同盟のオーカスから排除されました。同地域に植民地を持つフランスの不快感は豪州が潜水艦を発注していたフランスとの契約を破棄し、アメリカに乗り換えたことも重なってアメリカとの関係は冷え込んでいます。

 それにマクロン氏は欧州独自防衛の欧州軍推進派で、北大西洋条約機構(NATO)との距離を置きたいフランスはアメリカにとって異質な存在です。

 一方、ドイツは20世紀の大戦でロシアと対峙し、最後はナチスドイツが後ろからロシアにとどめを刺された過去があり、ロシアと揉めることは避けたいためにウクライナへの武器供給を拒否しています。アメリカは「信頼できない同盟国」と米ウォールストリートジャーナルに書かれ、アメリカにとっての足かせです。

 特に原発ゼロという極めて政治的目標達成を最優先するドイツ左派政権は、ロシアからの天然ガス供給の最大のルートであるノルドストリーム2の遮断も辞さないバイデン発言に距離を置いています。EU内でも原発維持派のフランスと廃止の急先鋒に立つドイツはエネルギー政策で対立しています。

 ポーランドやウクライナはドイツへの不信感が強く、仏独ポーランド首脳の共同記者会見で「戦争回避で欧州は結束していいる」と強調しても中身は一枚岩には見えません。

 EUは本来、ウクライナ問題は外交問題であり、欧州委員会の仕事のはずです。つまり、フォンデアライエン委員長かミシェルEU大統領がプーチンとの交渉を行うべきですが、実際はマクロン氏に続いてシュルツ氏がモスクワに向かう予定です。

 プーチン氏からすれば、欧州各国首脳はEUの交渉権限なしに交渉に臨んでおり、日常対話的レベルでしか話はできないのも事実です。つまり、マンデート(交渉権限付託)交渉からは程遠い段階でしかありません。欧米社会では交渉におけるマンデートは極めて重要です。

 ロシア国民は、欧州各国首脳が次々にモスクワ詣でする姿を見て快感に覚えていることでしょう。まるでプーチンの手玉に取られたように見られているからです。あのボスニアヘリツェゴビナ紛争でも欧州内で解決できず、最後はアメリカが乗り出して収集した過去もあります。

 ここで日本が天然ガスをヨーロッパに融通するだけでなく、経済力、技術力も伴って仲裁役を買って出るくらいの意欲と自信があれば、心強いのですが、国際紛争に常に及び腰の日本は指をくわえて見ているだけになるのかもしれません。仮に中国が台湾に軍事侵攻した場合のことを考え、NATOに恩を売っておいくことも重要かもしれません。




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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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