ウクライナと台湾どちらが重要? 米国のウクライナへの過剰な肩入れは中国を利する可能性大

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 ウクライナへのロシアの侵攻危機は、世界経済にすでに影響をもたらしています。国際原油市場は、バレル当たり100ドルの節目が目前に迫り、ただでさえコロナ禍で深刻なダメージを受ける航空業界は戦争危機で運航便の減便を迫られ、投資家が嫌う戦争という不確かな要因で投資の冷え込みが始まっています。

 しかし、それでも場所は中央ヨーロッパで、実は世界経済にとってコアな場所ではありません。ウクライナ危機を固唾を飲んで見守るのは、現在北京五輪を開催中の中国。ロシアが世界を敵に回し、G7がウクライナ侵攻に備え、結束して経済制裁を行うことを宣言する中、中国の台湾侵攻危機も現実味を帯びています。

 欧米諸国がウクライナ危機に対処するため軍事力を集中している最中、中国は一挙に台湾に侵攻する可能性は否定できません。穿った見方をすれば、ロシアと中国の間に密約があると勘繰りたくなる状況です。世界のメディアは連日、ウクライナ危機を伝え、台湾危機に関心はありません。

 米ウォールストリートジャーナルは、外交・軍事・経済戦略の専門家、エルブリッジ・コルビー氏が寄稿した「台湾はウクライナより重要」という論文を掲載しています。米国にとって台湾は9番目に重要な貿易相手国であり、台湾が中国に支配されれば、同盟国の日本や韓国、フィリピンの経済、安全保障を危機に追い込むことになります。

 コルビー氏は、ヨーロッパは英仏独など軍事力を備えた国が多く、自力でウクライナ危機にある程度対処できるとしています。この20年間でロシアより軍事力を増強させている中国の脅威は、ロシアをはるかにしのぎ、その中国が領土領海を拡大させる行為はウクライナ危機よりはるかに重要という指摘です。

 つまり、ウクライナ問題に気をとられている隙に、中国が一気に台湾への軍事侵攻を行う可能性は高く、アメリカはむしろ、中央ヨーロッパの配備している戦力を減らしてでも東アジアの戦備を増強すべきというのがコルビー氏の主張です。

 アメリカは、かつての世界の警察官であった時代と違い、世界の安全保障に対して国際協調を重視しています。その意味で同盟国が多く、北大西洋条約機構(NATO)もあるヨーロッパと違い、アジア・太平洋地域の安全保障は米英豪のオーカスなど未熟な枠組みしかなく、日本は憲法上の問題があり、戦力として考えにくいのが現状です。

 台湾周辺海域は日本にとってのエネルギー源の輸送ルートの生命線であり、現状維持は必要不可欠です。台湾を失うことは、ドイツがロシアの天然ガスの供給を受けるノルドストリーム2のパイプラインを失うことなど比較にならない影響を日本にもたらすものです。

 台湾が中国の手中に落ちれば、「米国は日本やフィリピンといった極めて重要な同盟国を守ることがより困難になる一方、中国は海軍、空軍などの自国軍を米国や米領の付近にまで展開できるようになる」(コルビー論文より)

 現在、世界の製造業を悩ましている半導体の生産国、台湾を失えば、中国が半導体供給の主導権を握り、外交の道具として使うことは確実です。中国の優位性は一挙に高まり、自由と民主主義の価値観を共有する国々は劣勢にまわらざるを得なくなります。

 すでに金融の中心である香港を完全に手中に収めた中国は、高度な技術を持つ台湾を手中に収める戦略を練っているはずです。ロシアがウクライナにこだわるにはヨーロッパの脅威のための緩衝地帯が欲しい程度ですが、中国にとっての台湾はそれ以上に価値のある国です。

 かつてブッシュ政権時代のラムズフェルド米国防長官は9・11テロ後、アフガンやイラクに対処しながら、北朝鮮の脅威と向き合う軍事力をアメリカは持つのかという問いに「もちろんだ」と答えましたが、今の中国に対峙するために必要な軍事力を考えれば、台湾に集中すべきでしょう。

 
 
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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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