ロシアを追い詰めたのは誰か アベルが正当性を主張するほどカインの怒りは高まる物語

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 私はウクライナにロシア軍が侵攻(今では侵略ともいわれる)して以来、最大の責任はバイデン米大統領にあると考えてきました。理由は米民主党政権はいつも同じで原則外交で思想信条が異なれば冷たく扱う態度しか取れないことです。オバマ政権の時も米露、米中関係は冷え込みました。

 これは自国内で女性の権利、有色人種やLGBTなどのマイノリティーの権利を擁護する何でもありの民主党の極めて矛盾した態度です。理由は民主党のリベラリズムは頭で考えたもので、一見、ヒューマニズムに見えますが、根底は権利、平等、自由など頭で考えた観念が先行し、心は軽視されているからです。

 一見、正義を追い求めているようですが、自分たちが信じる価値観と異なるものがあれば、徹底して潰しにかかるキャンセリングカルチャーが存在する独善的なものです。個人的には米中貿易戦争で敵対する中国に対してディールを続けたトランプ米前政権より、バイデン政権で米中関係は悪化すると見ています。

 なぜなら、専制主義の中国の強権政治は米民主党には完全に受け入れられない政治体制であり、人権弾圧、言論統制は許しがたいものだからです。過去には圧倒的な経済力と軍事力で反対する勢力に強圧的態度がとれたアメリカですが、今はそうもいきません。

 今はウクライナ危機でアメリカは武器を提供し、北大西洋条約機構(NATO)の東の最前線に武力を結集していますが、この期を狙って中東でイランが軍事行動をとったり、中国が東アジアで台湾軍事侵攻に踏み切った場合、アメリカは同時に世界の紛争に対処できるかは心配です。

 旧約聖書にはアベルとカインの話が出てきます。二人は人類始祖といわれるアダムとイブの子どもです。創世記によれば、神が「取ってはならない」と命じた果実(一般的には性的堕落を意味する)をとって堕落し、エデンの園を追い出された後に生まれたのがカインとアベルでした。

 二人は神に供え物を準備したのに、神は弟のアベルの供え物は受け入れたのにカインの供え物を拒否し、カインはアベルに嫉妬し、憎んで殺害したという話です。堕落した親から生まれた子供に起きた殺人事件は、その後の人類歴史に暗い影を残したと信じられています。

 ウクライナ危機をこの物語に当てはめれば、ロシアは歴史を持つ兄の立場、つまりカインで、アメリカは若い弟のアベルです。東西冷戦の終結でアメリカは自由と民主主義の勝利と有頂天になりました。聖書の中のアベルも、きっと神に自分の供え物が受け入れられたことに有頂天になったと想像されます。

 カインは自分の供え物が受け入れられなかっただけでなく、アベルが有頂天になっている姿に怒りを覚えたことが想像されます。冷戦終結時、ロシアの70年を超える共産主義の壮大な実験は失敗に終わり、その挫折感と惨めさは頂点に達していたことでしょう。

 単細胞のアメリカは自分たちの信じる理念が正しかったと有頂天になり、敗者に寄り添うことはしませんでした。プーチンもその歴史の転換点に立ち会っていました。70年間も大国アメリカと肩を並べたソ連は、かつてはドイツのナチスドイツを終わらせることにも貢献し、宇宙開発でアメリカと対等の技術競争を展開したソ連邦は崩壊し、今では中国の影になってしまっている状況です。

 広大な国土はあっても政治と富はウラル山脈以西に集中するロシアは、一方で文明の発達したヨーロッパの1部であると主張する一方、ヨーロッパから距離を置く独立した大帝国を追求してきたのがロシアです。ウクライナが完全離脱してヨーロッパに入ることをロシアが受け入れられるはずもありません。

 クリミア併合以来受けている西側からの制裁も怒りの原因の一つでしょう。冷戦終結以降、NATO加盟が模索され、いったんはG7に迎え入れられたロシアですが、ジョージアやクリミアへの軍事侵攻によって、西側から排除され、孤立状態が続いてきました。

 再び繁栄するロシアを模索するプーチン氏にとって、かつてソ連邦の仲の大国だったウクライナの欧州連合(EU)やNATO加盟の動きも、アメリカが仕組んだものだとプーチン氏は主張しています。アメリカはソ連に勝利しただけではすまず、ロシアをアメリカの配下に入れるためにウクライナを取り込もうとしているとプーチン氏には映ったとことです。

 そんな妄想を抱かせたのは、アベルが自らの正当性を主張し、繁栄を我が物とし、ロシア人の心に配慮しようとしない態度によるものと私は考えています。絶対的価値観を信じない日本人には遠い話ですが、一神教の国では十分想像できる話です。

 アベルの側に優劣を競う性質がある以上、カインの心が癒されることはないでしょう。小さい時から「1番教育」を受けたアメリカ人は、常にトップをめざし、トップになれば有頂天になる文化です。無論、その一方で成功者は社会奉仕の義務があるのもアメリカですが、助られる側の惨めな心を理解することもありません。

 アベルはなざ殺されたのか。それはアベルがカインを追い込んだからです。つまり、アベルが自らまいた種でカインの感情はコントロールを失い、アベル殺害に至ったわけです。無論犯罪を犯せば罰を受けるのは当然ですが、今はアベルの側に立った者が相手を追い込み犯罪を犯させないために解決の道を探ることが必要な時代なのでしょう。



 
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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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