デジタルノマドの国際的争奪戦 自由を確保できるデジタル・ノマドにも課題は多い

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 Work from anywhere(WFA)という言葉が世界的に普及する中、デジタルノマド(遊牧民)と呼ばれる働き方が若者の間で魅力を放っています。コロナ禍で加速したリモートワークの普及で働く場所を選らばないスタイルが普及し、定住地を持たず、世界中を移動しながら、稼ぐことができる魅力は拡大中です。

 しかし、このスタイルに欠けているのは、全ての世代には当てはまらないことです。あくまで単身者が基本で、せいぜい、同じ働き方が可能なカップルまではなんとか許容できても家族となると子育てに課題は多すぎるからです。

 1970年代、ヒッピーたちはキャラバンに乗ってアメリカ中を移動しながら、放浪していました。今でもそんな生活を実践する人はいますが、マイノリティーです。しかし、デジタルノマドはデジタル環境さえ確保できれば、キャリアを積み、確実に収入を得ながら好きなところに移動できる魅力があります。

 もともと開拓の歴史を持つアメリカでは、移動する意味は「もっとエキサイティングな生活が待っている」という超ポジティブ思考に支えられてきました。アメリカ人には故郷という言葉が歴史のある国ほど重みはありません。親も郷里にこだわっていなければ、子供にも故郷の意識は希薄です。

 世界中を見渡せば、自分が生まれた国に住めない難民が別の意味でノマドになっています。彼らの多くは帰郷を夢見ながら生活しています。ある人が言いました。「人がある場所を故郷と思うのは、そこで両親の愛が注がれたからだ」と。そのうち故郷を持たないノマドの子孫が拡がるのでしょうか。

 デジタル・ノマドの魅力は何といっても自由です。物理的拘束のない生活は若者にとっては魅力です。それも遊牧文化のある欧米では拡がるのも早い一方、定着型農耕民族のアジアでは、そのスタイルの定着は疑問視もされています。

 アジアの1国である日本も発展途上で急速に都市化が進み、職を求めて都会に移動し、ふるさと意識は急速に弱まりました。子供が戦後大量に都会に出ていった第1世代も60代、70代になり、親の多くは他界しています。結局都会に定着し、退職しても故郷に帰らない人の方が圧倒的に多い状況です。

 そして今度はデジタルノマドが増えるとどうなるのでしょうか。都会に行かなくて済む分、地方が発展するかといえば、すっかり愛郷心がなくなった日本人は、故郷ではなく、自分の好きな場所に住みたいと思い、さらに移動をくり返す選択肢が増えているのも事実です。

 中には仕事と観光を兼ねて「ワーケーション」をする人もいます。ゼロベースで物事を考えるのが得意なアメリカ人は、新しいライフスタイルに挑戦する人も少なくありませんが、多くの歴史ある国では勇気のいる話です。

 デジタル・ノマドの新たな潮流はグローバル規模になっており、世界各国でデジタルノマドを対象としたビザプログラムが提供されようとしています。現地の雇用を奪うことなく、地域経済に時間とお金を投資するデジタルノマドは、受け入れ国にとって貴重な存在だからです。

 そんな国際的なデジタルノマド獲得のため、今、世界各国が争奪戦に乗り出しています。たとえばポルトガルは滞在期間中にリモートで仕事をしていることを証明できる労働者に対して、2年更新の滞在ビザ(査証)を提供しています。
 ハーバード・ビジネスレビューは、オーストラリア、チェコ共和国、アラブ首長国連邦(UAE)、エストニア、ドイツ、タイ、インドネシア、イタリア、スペイン、ブラジルをはじめ、多くの国がデジタルノマド・ビザを発給していることを紹介しています。

 これらの国がノマド用のビザを発給している理由は、要するに現地の雇用を奪うことなく、自身の時間とお金を地域経済に投資し、現地の知識労働者との架け橋となることで人材育成にも繋がり、リモートワーカーと地域社会の双方にとって、ウィン・ウィンとなるからです。

 欧州連合(EU)の一部の加盟国では、既存の短期就労ビザの対象を拡大し、リモートワーカーにビザを発給しています。無論、受け入れ側はノマド達がもたらすポジティブ効果に期待している一方、地元愛のない無責任な行動が目立つノマドはお断りです。

 それに異文化摩擦懸念もあります。受け入れる側も排他的な村意識は禁物です。1時的に異文化環境で仕事をするノマド達も異文化適用に慎重さや耐性が要求されます。

 とはいえ、家族が出来れば移動型から定着型に移行する必要があります。私の周りにはデジタルノマドがコロナ禍で急増しましたが、皆、子供の教育で頭を抱えています。彼らの多くがインターナショナルスクールのある土地を選ぼうとしています。それなりの高収入がなければ実現しません。

 ただ、人間が成長するのは学校だけではありません。私は個人的にこの30年間、デジタルノマド並みに子供を連れて移動を繰り返してきましたが、そこにはメリットもデメリットもありました。特に子供の思春期の期間の移動は勧められません.

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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