紛争地域のバンクシーのメッセージ 21世紀のストリートアートが芸術に昇華する時

War Banksy

 ウクライナ紛争が始まって以来、正体不明の覆面アーティスト、バンクシーはいくつかの壁画をキーウなどで描いています。その中の1つガスマスクを着けた女性が黄色い壁に描かれた作品を盗もうとした犯人8人が身柄を拘束される事件が発生しました。壁からはぎとられた作品は無事なようです。

 バンクシーはすでに瓦礫の山の上でバランスを取って逆立ちする体操する少女像を描いています。描かれた場所のボロディアンカは、開戦時にロシアに占領され、4 月に解放された完全に破壊された町で、ウクライナ侵攻の生き証人といえる建物です。

 同じ、ボロディアンカでは、ロシアのプーチン大統領が愛した柔道で子供が男性を投げ飛ばす絵が壁に描かれています。最初にロシアの攻撃を受けたキエフの郊外に位置するイルパインでは、建物の足元にある廃墟の上でリボンを手に持った少女が踊っている様子が示されています。さらに鉄骨をシーソーに見立てて遊ぶ子供らなどを描いたものもあります。

 緊張した今もロシアの攻撃が止まない戦場に描かれたストリートアートの迫力は計り知れません。芸術の小さな、しかし強い抗議の意味がこもったものは心を打ちますが、バンクシーは芸術作品として評価されることは拒否しています。

 バンクシーが紛争地帯に介入したのはこれが初めてではなく、2005年から、彼は占領下のヨルダン川西岸に一連の詩的で平和主義的な壁画を制作しています。 2017 年には、バンクシーが開業に関わったパレスチナ自治区とイスラエルを隔てる壁がホテルの部屋から見えるベツレヘムのThe Walled Off Hotelには、火炎瓶の代わりに花束を手にし覆面をしたパレスチナ人の若者を描いた作品もあります。

 悲惨な紛争の映像は、今は世界に瞬時に配信され、人々の目に触れる一方、人の記憶から消え去るのも早いのが常です。バンクシーはそんな世界で、人々の記憶に残る作品を描き続け、人間の愚かさまで表現しています。

 このブログでストリートアートについて紹介したことがあります。パリのアーティストの連帯 ウクライナ戦争に抵抗を示すストリート・アーティストたち 抵抗のアートは世界に山ほどありますが、現代人に普遍的に訴えかける芸術性、メッセージ性の高い作品はそう多くはありません。

 ストリートアートは作品を制作する側も、観賞する側も通常の市場原理(画商や展覧会会場)は関係していません。全て無料で公共性が非常に高いものです。とはいえ美観を著しく損なうものも多くあるのは事実で、誰からも受け入れられるアートはそれほどありません。

 パリ市は年末、パリ市内の落書きを消すのに年間約10億円近く費用が掛かることを根拠に落書きする者を現行犯で逮捕し、司法に訴えることを決めました。パリで落書きするのは50人足らずだそうですが、観光都市パリとしては、見苦しい落書きは犯罪となりました。

 落書きなのかストリートアートなのか議論は尽きないところでしょうが、決めるのは一体誰なのでしょうか。テロで100人以上が犠牲となったパリのバタクラン劇場の通用口の扉に描かれたバンクシーの絵は、パリ市が保存する方針を固めています。




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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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