密入国の移民の行き場ない現実 彼らも同じ人生に希望を持つ人間という認識はどこへ

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 地中海の海路から押し寄せる大量の密入国者への対応に苦慮するイタリアのメローニ首相は、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員会委員長に対応を要請し、今月17日に同委員長と首相は最も移民船が到着するイタリアのシチリアのランペドゥーザ島を訪問しました。

 ランペドゥーザ島にはその前の週の2日間だけで島の人口を超える7,000人の密入国者が到着し、島の住人が危機を訴えました。背景にはアフリカの政情不安、地震や洪水などの自然災害などが上げられ、快晴が続いたことやチュニジアの密航業者が転覆しやすい木造船から丈夫な鉄製の船に変えたことが、密航者の増加に繋がっていると指摘されています。

 ところがヨーロッパは今、ウクライナ紛争中であり、ウクライナからの難民も大量に受け入れており、アフリカから受け入れる状況にはありません。フランス政府はイタリアに上陸する不法移民の受け入れをしないことを表明しており、2015年に100万人以上のシリア・イラク難民を受け入れた時とは、まったく状況が変わってしまいました。

 欧州連合(EU)は、この10年、アフリカから地中海を命がけで渡ってくる密入国者対策で、例えば、難民申請をアフリカ側のリビアやチュニジアなどで行ったり、不法移民から高額な手数料を取る悪質な人身売買の密航業者を取り締まることや、出発地点であるリビアやチュニジア側の地中海上空を監視するなど、ありとあらゆる対策を講じてきました。

 しかし、アフリカでの内戦や干ばつ、経済状況の悪化、テロなどを嫌い、ヨーロッパをめざすアフリカ人の数は減る気配がなく、最近ではロシアや中国が政治不安定なサヘル地域などに入り込み、クーデターを支援し、ますます混迷を深めています。

 EUは原則、移民は域内に到着した場合、到着した国で移民・難民申請をすることになっていますが、イタリアは受け入れ能力を超えており、収容施設からの脱走も増えていまう。隣国フランスは国境警備を強化し、不法移民の流入を防いでいますが対応できていません。

 イタリア側は、現在機能不全に陥っているEU加盟各国が平等に移民受け入れを担う欧州連帯メカニズムの再開をEUに要求していますが、加盟国は積極的ではありません。

 今後、フランス政府は旧植民地ニジェールに駐留する仏軍部隊を年内に撤退させる方針で、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ガボンといったフランスの旧植民地でのフランスの存在感は急激に低下することが予想され、反政府勢力やテロ組織が台頭し、混迷を深めるばかりです。

 しかし、ヨーロッパにとってアフリカは今後もビジネスチャンスもあり、資源の供給源であり、必要不可欠な存在です。そのため、アフリカと決別する選択肢はありません。ただ、アフリカもグローバル化の波の中で旧宗主国にだけ頼る状況にはない現実もあり、特にロシア、中国に荒らされる現象が起きています。

 英国は押し寄せる密入国者をアフリカに押し返すためにスナク政権がアフリカのルワンダと契約し、強制輸送する措置を取ろうとして人権上の問題で批判されています。

 身の危険を逃れて英国に密入国した人間を、ルワンダがやれることは出身国に追い返すことしかできず、残酷な措置というしかありません。そもそも密入国者を含む移民・難民の希望は安全確保だけではありません。彼らも人間として人生に希望を抱いており、目指す国で成功したいと考えています。

 受け入れる側が安全は確保したから、社会の隅でおとなしくするか、ルワンダに移送するといわれるのは、彼らを人間として考えていない証拠です。2015年にドイツやスウェーデンに住み始めたシリア移民が、差別に耐えられなくてトルコの難民キャンプに戻るのと同じです。

 命がけで逃れてきた彼らが定住先で差別や迫害に遭う悲劇は無視できないものがあります。




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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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