なぜクリスマスを世界は祝うのか 1人の男の33年間の足跡がもたらした福音は無力なのか

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 クリスマスの季節がやってきました。パリのオスマン通りのデパートのショーウインドウは毎年、動くディスプレーで人々を喜ばせています。シャンゼリゼのイルミネーション、ニューヨークには巨大なクリスマスツリーがあり、キリスト教の国でもない日本でもクリスマスケーキが飛ぶように売れています。

 イエス・キリストが生まれた日は、イエスが世界に福音をもたらした日です。病を治し、目の不自由な人が見えるようになり、歩けなかった人が歩けるようになる奇跡が日本では強調されますが、本来、日常の現実の問題解決であるご利益がキリスト教の本質ではありません。

 御利益というなら、ヨーロッパ全体が戦場となった20世紀の大戦争を経験したヨーロッパ人は、神様もイエス様も守ってくれなかったといって信仰は失われたはずです。アウシュビッツの収容所で大虐殺されたユダヤ人の信仰も、今、ガザ地区で熱心なイスラム教徒が増えているのも、ご利益宗教でない証拠です。

 献金したり、供え物をすれば、金が儲かるなどという宗教は、1神教では宗教の部類ではありません。世界観がないからです。だから、クリスマスを祝い、その1週間後、神社に行って賽銭を投げ、お払いしてもらい、1年の無病息災を祈る日本人は、今でも世界では不思議な存在です。

 ある日本の新興宗教が金を集めるため、それまでなかった悪霊払いを献金と引き換えに行ったら、とたんに献金が集まった一方、戒律を守る厳しい信仰生活は薄まり、嘘と欺瞞が蔓延したという話もあります。キリスト教の歴史にも教会の資金難を解決するため聖職者が免罪符を信者に買わせる代わりに天国に行けると説いた歴史があります。

 結果的に、ご利益宗教は天国を金で買おうとイエスの教えにない考えだったため、そこからプロテスタントが生まれました。1年に一回だけ神社に行って賽銭を投げればその1年は大丈夫というのは調子のいい話かもしれません。

 日本で「結局は人生金次第、人は金で動くもの」という人生観が根強いのも、そういったご利益宗教と関係がありそうです。ところが島国で天皇が存在し、その天皇は金次第では動かない存在で1500年以上の歴史があると言われていることから、日本人は卑しい商人気質を持ちながらも、道徳的な高さを維持してきた歴史も無視できません。

 今、世界は終わりの見えない大規模な戦争が2つも同時進行しています。その戦場の悲惨な映像を毎日見せられ、子供が泣き叫び、脚を切断せざるを得ない子供は400人を超え、2万人を超える犠牲者の中子供は8千人とも言われています。未だ約6700人の犠牲者が瓦礫に埋まったままとも言われています。

 たとえ彼らがキリスト教徒やユダヤ教徒でないにしても、同じ人間として直視できない悲惨な状況です。私は東日本震災発生時、フランス西部ブルターニュの妻の郷里の小さな町にいました。そこで入った薬局の店主が「日本のあなたの親族は大丈夫か?」と聞かれ、遠い異郷の地に同情してくれた言葉を今でも忘れることはできません。

 イエスがもたらしたのは、キリスト教では福音と言います。福音とは救世主が現れた良き知らせを意味します。その良き知らせは、ローマに支配され、奴隷になるなどして苦労していたユダヤ人にもたらされましたが、イエスは異邦人にも福音を伝えました。

 殺戮を繰り返していた旧約聖書を見れば、毎日、命の危険に晒されてきた一般市民は、病を治すことが福音の本質でないことはすぐにわかります。福音の本質は神を愛し、隣人を愛し、汝の敵まで許すことでした。救済は神の許しによってしかもたらされない考えからすれば、人間同士が許し合い、愛し合うことは当然です。

 そのことが分からない人々に、自分ではなく、他の人のために十字架に掛かったイエスを見て、良心が目覚めた人も多かったということです。新興宗教のような大げさな教義本もなく、たった3年間で示した言葉と行動で2000年以上、信仰が保たれてきたのがキリスト教です。

 無神論の共産主義は、産業革命で広がった格差と、2度の戦争で、急拡大しましたが、100年で力を失いました。普遍性がない証拠で、2000年の歴史を持つキリスト教や4000年と言われるユダヤ教とは比較になりません。

 問題は、教えはあっても実践は難しいということです。ユダヤ教でいわれる報復的正義である「目には目を歯には歯を」も実は公正さを十分に吟味し、報復の正当性が担保されなければやってはいけないとされ、キリスト教では「右の頬を打たれれば左を頬を出しなさい」と言われますが、それは全く現実味がないとして実践されていません。

 福音の教えを守るのは容易でないことが分かります。それでも福音をもたらした記念日を祝うのがクリスマスです。喜ばしい日であり、心が解放された日というわけです。私は個人的にノーベル文学賞を受賞したスウェーデンの作家、ペール・ラーゲルクヴィストの『バラバ』を愛読書にしています。




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Author:artworks21
安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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