大国とグローバルサウスのパワーバランス 習近平の欧州3か国歴訪に見る対話継続戦略とは

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 中国の習近平国家主席は5年ぶりとなる欧州歴訪でフランス、セルビア、ハンガリーを歴訪し、それぞれの国で歓待を受けた。中国は2020年夏、王毅外相を欧州に送り込み、欧州との投資協定締結による新たな経済関係構築に向けた最終の詰めを行おうとした。

 ところが中国の思惑ははずれ、香港の民主化抗議デモや新疆ウイグル自治区のウイグル族への弾圧について、中国政府のこれまでの人権弾圧への批判が予想以上に高く、欧州議会も協定締結を凍結し、中国のメンツは潰された。

 この4年間近くでロシアのウクライナ侵攻、イスラエル・ハマス戦争で、東西冷戦後の世界の枠組みは大幅な変更を迫られている。5月5日からの習近平国家主席自らのフランス、セルビア、ハンガリーの3か国歴訪は、激変した世界情勢を踏まえ、中国が4年前に失った面子回復のリベンジ外交ともいえるものだ。

 中国は、世界からバッシングを受けるロシアが、世界を敵に回すことなく、インドやアフリカ諸国など、グローバルサウスの国々を味方につけることで、経済制裁さえも回避している状況をつぶさに見てきた。

 4年前は経済大国として王毅外相の高飛車な態度が目立ったが、今回の習氏の態度はフランスとは対話継続、セルビアやハンガリーとは信頼関係構築重視が外交姿勢で目立った。

 例えば、長年、大国を続けるアメリカは、オバマ時代に考えの異なるロシアと中国を無視し続けた。個人的にはオバマ外交はこの時、完全に間違っていたと私は考えている。国家間の外交は基本的に普通の集団や組織と異なり、相手の国が大小にかかわらず、倒産して消えることはない。IMF下に入っても国家は存在し続け、国連では一票を持つ。

 アメリカでは、民主党政権が思想、信条を共有できる国家との付き合いを優先し、フレンドリー外交、原則外交を展開するが、外交で実績を上げたことは皆無だ。原爆計画を命じたフランクリン・ルーズベルトも広島、長崎に原爆投下を命じ、その行為を生涯正当化したハリー・S・トルーマン両米大統領は民主党出身者で、日本人に差別的だった。

 合わない者は遠ざけ、毛嫌いする伝統はオバマ、バイデンにまで受け継がれている。ノーベル平和賞を受賞したオバマは平和主義者とされているが、プーチンや習近平を遠ざけたことで2つの大国を追い詰めた外交は総括されていない。外交戦略に対話維持派と断交派があるとすれば、国家間の外交関係で断交派が成果を出すことはあり得ない。

 それも2国間対話だけでなく、国連を舞台とした外交には多数決の原理も意思決定に大きな影響を与える。西側諸国がロシアに制裁を加えようとしても、制裁に加わらないグローバルサウスの国々によって否決される状況をウクライナ問題でわれわれは見せつけられた。

 トランプ政権時代、アメリカは一度も戦争を主導したり、引き起こすことはなかった。理由は敵対する北朝鮮などともディールしようとしたからだった。味方に厳しく敵に柔軟なトランプ氏のアプローチは、戦争が起きないという意味で評価されるべきもので、ビジネスの交渉学に取り入れる価値のある教訓だった。

 フランスは、欧州の大国として唯一、7日にクレムリンで行われたプーチン大統領の就任式に代表を送り込んだ。米英独伊は欠席した。今や戦争犯罪人として指名手配されているプーチンだが、マクロン氏はプーチン氏に仁義を切った形だ。今後の事態の急変で、繋がったパイプが役にたつとの考えだろう。

 実はマクロン氏は北大西洋条約機構(NATO)の会合などで「ウクライナ紛争終結はロシアに勝つことでしかもたらされない」と明確に述べ、プーチンを敵視する発言を繰り返している。にも関わらず、就任式に代表を送り込んだ。

 習氏も無制限のパートナーシップを結ぶロシアを敵視するフランスを国賓待遇で訪問し、二国間の投資拡大、強固な安定した関係強化、人的・文化的交流促進で合意した。中でもフランスが問題視するコニャックの関税障壁で、中国は専制関税を課さないことを表明した他は、安価な電気自動車の氾濫やアグレッシブな医療機器製造拡大に具体的返事はなかった。

 習氏は、マクロン氏が提案したパリ五輪・パラリンピック開催期間中のウクライナ停戦を支持したが、戦争中のことであり、ロシアが停戦を受け入れる可能性は少ない。ただ、両国にとって共有するテーマを持ち、政治関係を維持することは重要だ。

 無論、習氏は外交対話を政治利用することしか頭にないのも事実だ。それでもチャンネルを作っておくことは、フランスにとっても中国にとっても、あるいはEUとっても重要と思われる。




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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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