異文化理解は奥が深い

 仕事で企業の海外赴任者の研修を担当することがあります。最近では日本帰国後の再適応のための研修もあるほどです。実はビジネス上の異文化理解は、それほど深くはありません。

 最近、米ロサンゼルスでサプルメントの通信販売を手がける日本人と会食しました。彼は日本人の妻とロスに住んでなんと30年になるそうです。話題は昨年のアメリカ大統領選の話になりました。

 彼は「政治のことはよく分からないが、トランプがオバマケアを廃止するというので、すぐトランプに投票した」と言いました。理由は、オバマケアが導入されて以来、保険料が鰻のぼりとなり、今では日本円で、夫婦で月額20万円以上を払っているというのです。

 彼自身は病気もしないので、本当に無駄な出費だと言っていました。その彼は自分でも言っていましたが、この30年間、家では日本食を食べ、外食も日本料理が多く、付き合うのも日本人がほとんどなので、アメリカ社会を本当は知らないというのです。

 ですから、仕事で海外赴任し、3年から5年滞在して、その国を理解するといっても限界があるのも当然です。今はネットですぐに情報を得ることができるので赴任先で困っても、その国の文化、習慣は知識として迅速に入手できます。

 ところが何千年も異なった風土、歴史、宗教の中で培われた人間を理解することは容易ではありません。それに相手は変化もしています。無論、私のようにフランス人と結婚していれば、その理解度は飛躍的に増しますが、それでも容易ではない。

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 米マサチューセッツ工科大学のパトリシア・ガーチック教授が書いたOn Track with the Japaneseという著書の中で、最終的に文化を超えた人間関係構築のゴールを「結婚」に例えています。

 無論、これはたとえですが、現地スタッフと結婚レベルまで人間関係を構築できた人はけっして多くはありません。最近、日本の大手自動車部品メーカーのロシア工場立ち上げに関わった方から興味深い話を聞かせてもらいました。

 彼は、まったく未知のロシアの田舎で土地探しから始め、雇用したロシア人の訓練をゼロから行ったそうです。

 彼は現場主義を貫き、自分よりはるかに巨漢の腕力の強そうな従業員と、何度もぶつかり合いながら、それでもコミュニケーションを絶やさず、結果として非常に高い生産性を誇る工場に仕上げたという話でした。

 異文化での成功者の共通点は、オープンマインドであること、コミュニケーションを面倒くさがらないこと、人間関係を築くことを最優先に考えること、そのために現地スタッフからのフィードバックに常に耳を傾けることです。

 その結果、異文化理解も深まり、日本人の価値観の延長線上では考えなくなり、日本人が持っていないスキルを活かせるようになるという話です。案外、そこまで徹底する海外赴任者は、多くはいないというのが私の印象です。


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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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