アウシュビッツの生還者シモーヌ・ヴェイユ仏女性大物政治家死去

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 戦後のフランスを代表する女性大物政治家のシモーヌ・ヴェイユ女史(89)が30日朝、自宅で死去したことが明らかになりました。
ヴェイユ女史は、一家でアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所に収容されながら、生還した人物です。

 彼女は、生き残ったのは自分と妹だけだったと後に語っています。その経験は生涯を通して政治家として、人道的活動に注力したことで知られる。最近、その姿は公には見られ見られませんでしたが、かつてはテレビに登場する度に、その存在感は圧倒的でした。

 1960年代後半から1970年代にかけて妊娠中絶の女性の権利を保障する法改正で中心的役割を果し、妊娠中絶の合法化を実現し、ヴェイユ法と呼ばれています。しかし、当時、妊娠中絶合法化で旗を振っていたフェミニズム運動には加わらず、右派政治家であり続けた。

 妊娠中絶を殺人としていたカトリシズムの伝統的価値観に対して、ヴェイユ氏が合法化を主導した当時は、保守派の突き上げは非常に激しかったと言われています。しかし、人道主義のユダヤ人という立場が彼女を守ったとも言えます。

 保健相、欧州議会の議長も務め、政治的には右派に属した一方、社会政策ではしばしば左派の政策を支持したことでも知られ、ヨーロッパの良心を体現した政治家とも言えるでしょう。

 フランス政界の重鎮的存在で妥協を許さない強い信念を持って政治家として知られ、仏憲法評議会評議員も務めました。さらにナチスによるユダヤ人迫害の歴史の記憶保存にも尽力しました。

 ヴェイユ女史の死はフランス政界だけでなく、欧州委員会や欧州議会の関係者、さらには欧州各国首脳からも追悼のメッセージが寄せられています。2008年からアカデミー・フランセーズの会員でした。

 戦後のヨーロッパの人道主義は、キリスト教的価値観とともに語られることが多いのですが、実はヴェイユのようなユダヤ人が大きな影響を与えている事実は見過ごされがちです。

 無論、宗教的価値観から言えば、例えば妊娠中絶については、カトリックとしては今でも殺人との見解なのに対して、ユダヤ教は妊娠初期は人間として認められないとの立場から、初期中絶は認めているなどの異なる考えは存在します。

 それはともかく、ヨーロッパ人が共有する生命の尊厳や人権、人道主義にユダヤ人の存在があることは重要な点と言えるでしょう。


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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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