日・EUのEPA交渉妥結は双方にとって明るい材料となるか

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 欧州連合(EU)と日本は先週8日、経済連携協定(EPA)について関税分野で大枠合意したことで妥結したことが報道されました。今後、正式の協定文の作成を行い、2019年の発効をめざすとしています。ただし、対立点が残る投資の保護基準および紛争解決ルールについて切り離して協議を続けるとしています。

 世界的に見て経済水準の高いEU(人口約5億人)と日本(人口1億人)の経済規模は全世界の国内総生産(GDP)の30%近くを占めると言われています。そのため、EPAの発効は世界最大の自由貿易圏を産むことに繋がり、それも協定は地域圏ではなく、中国とロシアを飛び越えた形での貿易圏を形成することになります。

 EUは長年、自由貿易のルールを守り、世界的信頼感の高い日本との経済連携を模索し続けており、大きな一歩を踏み出したことになります。

 個人的取材によれば、冷戦終結直後から英仏独の欧州大国の指導者は、外交、経済分野での日本との関係強化を熱望していたことを多くの当時のインタビューで確認しています。

 冷戦後の世界の新しいフレームワーク作りに日本の参加は不可欠と考える欧州識者は多く、パックス・アメリカーナの時代から、民主主義と自由市場主義を共有する米欧日を核とした新しい世界秩序の模索が鍵になるとの意見が、私の行った当時の欧州の政財界・学界のリーダーの共通した意見でした。

 残念ながら、当時日本は閉鎖的市場の開放途上にあるだけでなく、アメリカとの関係最優先の考えが強く、おまけに憲法上の問題から世界の問題にコミットすることを躊躇する姿勢もあり、さらにはバブル崩壊後の政治的混乱や、日本側に黄昏の欧州というイメージなどもあり、EUの片思いに終わった感がありました。

 EPAの締結は無論、経済的側面で論じられることが大半ですが、EUの事情を考えると今ではEU経済は中国頼みのような様相を呈しており、日本との経済関係強化は状況を変える一助になると個人的には見ています。

 欧州委員会のユンケル委員長は「EUと日本はオープンかつ公正で、ルールに則った貿易を守る力強いメッセージを発した」というメッセージを今回流しています。
 
 EPAは、具体的には焦点となっていた日本車とEU農産物製品で長期の移行期間が設けられたことを含め、EU側が輸出入品目の99%、日本側が94%の関税撤廃を実現する可能性があるとされています。

 EU側はドイツ、フランス、英国、スペイン、イタリアなどの自動車メーカーを念頭に、日本車に対する現行10%の輸入関税は、協定発効から7年をかけて撤廃するとしています。

 自動車産業は労働市場に占める割合が大きいため、双方ともに慎重ですが、日本では欧州メーカーの自動車の人気が高く、EUでは日本車の人気が高いため、双方の自動車メーカーの競争力に極端なギャップがないため、関税撤廃は双方にメリットをもたらすと見られています。

 今後拡大が期待されるサービスや投資の自由化、知的財産や電子商取引(eコマース)、コーポレートガバナンス(企業統治)、貿易と持続可能な開発、規制協力、農業協力など幅広い分野での新しいルールの構築で基本合意に至ったとされています。

 EPA交渉でしばしば取り上げられてきたEU産チーズの輸入関税撤廃は、日本はEU産のハードチーズについて15年以内に約30%の輸入関税を廃止し、カマンベールなどのソフトチーズや生チーズの輸入では現在の輸入量を上限に無関税化するとしてきます。そのため政府はチーズ生産農家への補助金を上澄みする考えです。

 では今回、意見の隔たりを埋められなかった投資の紛争解決ルールを切り離してまで、妥結を急いだ理由はどこにあるのかということです。投資の紛争解決ルールについてはEU側の意思決定の複雑さという事情が大きく、EU全加盟国の批准・承認手続きの必要性が指摘されています。

 EPA交渉でよく引き合いに出されるEU・カナダ間の包括的経済・貿易協定(CETA)で、同ルールを含めて合意にこぎ着けたものの、後から承認にEUが手間取った例もあり、2019年の発効を目指すためには、切り離さざるを得なかった事情もあったとされます。

 それにEUは、2019年3月に英国のEU正式離脱を控えており、それ以前に協定を発効したいという事情もあると見られています。一方、日本側は、懸案の環太平洋連携協定(TPP)からアメリカが脱退した中で、アメリカとの関係の深いEUとのEPA協定発効で、アメリカにプレッシャーをかけたい狙いもあると見られています。

 EUにとっては経済的浮揚の時期にあり、EPA交渉の妥結は追い風になると受け止められています。その一方で、欧州にもアメリカ同様、行き過ぎたグローバル化にブレーキをかける保護主義的指向が強まる現象も起きており、慎重論は消えていないにも事実です。



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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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