360度評価のメリット、デメリット 最終目標はいかに会社を強くするかにある

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 ある時、教鞭をとっていたフランスの大学で、5年間ほどコース・プロジェクトに共に取り組んでいた教授が、いきなり大学側から契約更新しない旨を言い渡され、驚いたことがありました。理由は学生の担当教授への評価が大学の定める最低基準を一定期間下回り続けたからでした。

 その大学は私が教鞭を取り始めた1993年には、ビジネススクールということもあり、すでに学生が教授を評価する制度を導入していました。最初は抵抗を感じたものです。理由は「不真面目で怠け者の学生もいるのに、彼らに評価されるのでは、正しい評価など得られない」というものでした。

 幸い(?)、私は一度も全体評価で基準値を下回ったことはありませんでしたが、細かい個別項目で改善を求められたことはあります。しかし、契約を打ち切られた同僚の教授は、悪い評価を受けて大学側から改善を求められた時、学生への評価を異常に上げるなどして、学生におもねるようなことをし始め、それも大学側から注意され、追い込まれていきました。

 大学における学生の位置は企業と違い、大学にとってクライアント的要素があり、学生の満足度は大学の評価を左右します。しかし、社員が自分の働く会社への満足度を示すことは、優秀な人材を集めるのには重要な判断材料になるという点では似た点もあります。

 360度評価(多面的評価)は、多くの企業で導入が進んでいますが、メリットとデメリットがあることは何年も前から指摘されています。まず、評価は客観性が重要ですが、複数の部下が定められた基準に従い評価するので、客観性が確保できるとか、直属の上司だけでは分らないリーダーシップ、マネジメントスキルの評価が得られるなどメリットが指摘されています。

 特に部下が上司に仕える精神が非常に強い日本では、自分を評価する上司にばかり注意を払い、部下から自分がどう評価されているかへの関心が薄いため、本当の自分は見えにくく、独善的になりやすい傾向があります。その意味でも多面的な評価は人を育てる意味でも効果があるといえます。

 逆にデメリットは、最初の例のように自分を評価する人におもねることで、部下の問題点に気づきながらも見過ごすとか、上司の仕事内容が分らない部下の評価は不快とか、上司の権限が弱体化するとか、社員同士で気に入らない上司の足を引っ張るための談合を始めるとか、ネガティブな心理が働くリスクがあるというものです。

 そのため、運用方法を誤れば、360度評価システムは、社内雰囲気を悪くし、人も育たず、意思決定の権限、責任も曖昧化するリスクもあります。

 実はグローバルな職場環境では、評価は非常に重要です。なぜなら、評価基準が文章化されていても、その受け止め方は文化的背景の違いから、思ったようには伝わっていないケースが多く、さらに日頃、異なる文化を持つ上司が自分をどう評価しているかは見えにくいからです。無論、部下が上司をどう評価しているかも同じです。

 そこで360度評価システムを導入するためには、丁寧な説明と日々のフィードバックが必要です。無論、報復人事を回避するため匿名で行い、昇給や待遇と直結させないとか、評価結果は公表はしないとか、上司の権限は明確にしておくことも必要です。

 しかし、人が見えにくい多文化環境では、社員相互のフィードバックの機会を増やすことは極めて重要です。日本企業の多くが海外でナショナルスタッフからの評価を無視しているケースによく遭遇します。日本本社が評価している人材と、現地での評価には大きなギャップもあるにもかかわらず、日本的価値観だけで評価基準を決め、現地職員が生かされていないケースもあります。

 社員の強みや改善点を明確にし、適材適所に人を配置し、育てていくためには、360度評価システムは有効性が高いのですが、導入には慎重さが必要です。それに何よりも人材を正しく評価することが会社を強くするという目的意識を持つことが大切です。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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