異文化理解の文化のものさし 難易度の高い第3レベルはヒーローを探せ!

Leadership-Role

 アメリカに長期滞在する赴任者は基本的にアメリカの価値観を学ぶ必要があります。なぜなら、歴史の浅いアメリカは、いわば移民によって人口的に建国された経緯があるため、国の価値観によって作られたルールを理解するのが理解の早道だからです。

 ところが価値観やルールを理解しただけでは、相手を理解できないのも事実です。私が研修を担当したアメリカ赴任者の中には、赴任後、半年も経つと自分の知っているアメリカの価値観と現実のギャップに戸惑う例は少なくありません。

 逆に長い歴史を持つフランスにビジネスで赴任したり、学ぶために長期滞在する日本人の中には、自分が思い描いていたフランスと違うことに悩む人は少なくありません。特にフランスに憧れていた人のカルチャーショックは大きく、何度も相談を受けたことがあります。 

 異文化理解には3段階のレベルがあるといわれ、難易度が低い第1レベルは「気候や風土」のものさしです。たとえば、モンスーン型(日本・東南アジアなど)地域に住む人間は、温暖な気候と高い湿度で作物が育ちやすく、自然や人間同士との調和を重視する文化がある一方、自然は時に猛威を振るうため忍従的な性格が強いといわれます。

 大陸と島国では、大陸は異文化を持つ人の移動が頻繁で争いも多く、戦闘的で不信感が強く保身的な性格である一方、多様な文化の受容に慣れている。島国は他国の侵入が少なく、排他的で多文化の受容が困難な一方、国の中では対立より調和を重視する傾向があるなどです。

 第2レベルは社会ルールで、どの国にも法律や社会ルール、行動規範があります。アメリカは社会正義や公正重視で、自由と平等のバランスをとる公正さを重視し、人権法や雇用法に影響を与えています。ドイツは法律や決まり事重視で、交通法規やゴミの分別などの決まりを厳格に守ろうとします。歩行者は車が1台も走っていなくとも赤信号を守ります。

 中国は政府への忠誠重視の一方、権力の偏りから役人の汚職が頻繁に起きている。中南米・東南アジア・インド・アフリカでは、遵法意識が低く、法律よりも社会慣習が重視され、時間の観念が薄く、その時の状況や感情で行動する傾向があります。

 最も難易度の高い第3レベルは、長い歴史の中でその国民に刷り込まれた明文化されていない常識や価値観です。文化の文脈(コンテクスト)ともいわれるもので、人間はこのコンテクストで物事を捉え、判断し、行動していますが、自分でもその理由を言葉で説明するのは困難です。

 特に第3レベルに関係の深いのは宗教です。普通、欧米のビジネススクールやジャーナリズムの世界では、異文化理解で重視されるのが、その国の宗教観です。その意味で日本は異質です。昔、米タイムズ誌が、バブルの絶頂期に日本特集を組んだ時も「正月に神社に行き、結婚式はキリスト教で挙げ、葬式は仏式というのは理解しがたい」と書いていました。

 ユダヤ教やキリスト教、イスラム教のような一神教的価値観は、世界観そのものを規定し、ある意味独善的な普遍主義です。ユダヤ教は強い民族(人種ではないが)主義や強烈な排他主義的で、キリスト教は基本的人権や民主主義的価値観を生み、イスラム教は男性優位が見られます。

 一方、仏教的価値観では、人生そのものは得を積むための修行であり、輪廻転生を信じ、分をわきまえる生き方、自然との調和が重視されます。儒教は宗教とはいえませんが、長幼の序や礼儀を尊重し、人間関係に一つの明確な規範があります。

 では、最も難易度の高い第3レベルを理解するにはどうしたらいいのか。私の提案は、その国に行ったら、その国のヒーローを調べることです。そして多くのヒーローは紙幣に印刷されたり、街中の銅像になったりしています。そのヒーローには、文章化が難しいコンテクストが詰まっています。

 アメリカは、勧善懲悪で悪と果敢に戦う人間や、正義を実現した人間、大きな成功を収めた人間がヒーローです。スーパーマン、リンカーンやケネディ、スティーヴ・ジョブズがそうです。日韓のように日本の初代首相、伊藤博文はお札になり、伊藤を暗殺した韓国の義兵、安重根は、韓国の紙幣に印刷されたヒーローという複雑なものもあります。

 海外で成功している日本人をみると、この難易度の高い第3レベルをクリアしている人を多く見かけます。ただ、注意も必要です。特に第2レベルは文章化され、分かりやすい反面、それは「こうあるべきだ」という理想で、現実がそうなっているわけではないからです。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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