アメリカをめざす移民集団、国際社会は国民を窮地に追い込む国家になすすべがない

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  PHOTO: PEDRO PARDO/AGENCE FRANCE-PRESSE/GETTY IMAGES

 中米ホンジュラスを脱出し、グアテマラを通過し、今はメキシコを行進するキャラバンという名前までついた移民集団がアメリカに近づき、世界の注目を集めています。中間選挙を控えたアメリカのトランプ大統領は、国家の非常事態だとし、米国境警備隊や軍隊覇権を警告し、マティス米国防長官は26日、国土安全保障省が要請していたメキシコ国境への追加の兵士派遣を承認しました。

 さらに、キャラバンがアメリカをめざしていることに強い不快感を示すトランプ大統領は、エルサルバドル、グアテマラ、ホンデュラスの中米3カ国への支援を停止するか大幅に削減するとの構えを見せています。そこで思い出すのは、2015年のシリア人を中心に大量難民が欧州に流入した時のことです。

 以前から欧州をめざす難民、移民の最終目的地は英国。そのため、欧州連合(EU)加盟国のどこから入ってきても、英国をめざすため、英国とドーバー海峡を隔てるフランスのカレーに集結し、「ジャングル」と呼ばれる不法移民キャンプに一時は3,000以上が暮らしていました。

 腐臭漂う劣悪な環境のキャンプから、ユーロトンネルを通って英国に行く貨物トラックなどに不法に乗り込み、英国への入国を試みる者は、月に1,500に達し、結局、英国とフランスの話し合いで「ジャングル」から移民を追い出し、焼き払いましたが、第2、第3のジャングルができました。

 シリア難民は、英国をめざす難しさを知って積極的受入れを表明したドイツやスウェーデンをめざしましたが、本音では英国が本命なのは、今でも変わりません。当時、ギリシャに上陸した難民・移民はギリシャやハンガリーなどには目もくれず、通過するだけでした。

 今回の中米の移民集団全員はアメリカをめざして行進を続けています。フランス人の高校生の姪は私に「なぜ、彼らはメキシコじゃ駄目なの?メキシコにも失礼じゃない」と聞いてきました。その質問で欧州に流入する移民がフランスを超えて英国をめざすことを思い出しました。

 英国は島国なので、壁は必要なく、トンネル検問と水際対策だけで済みますが、アメリカはそうはいきません。英国はそれでも2016年のEU離脱を決めた国民投票に移民流入問題が影響したといわれています。流入を阻止したい主な移民はポーランドなど加盟国からですが、EU外からの不法移民流入も警戒しています。

 移民・難民が英国やアメリカをめざす理由は、経済的理由が大きい一方、自由、人権、正義が守られ、多文化を受け入れる国であることが大きな理由です。ホンジュラスでは、ギャングが1日平均11人の一般市民を殺害しているといわれ、そのギャング集団は中南米を中心に1万人の構成員を持つ犯罪集団に成長しているといわれています。

 だから、キャラバンに加わる人々は、自由、人権、正義の価値を誰よりも知っているといえます。それにアメリカには、スペイン語しか喋れないヒスパニック系の人が多く住んでおり、受け入れ態勢もあると思われています。逆にメキシコは経済だけでなく、ギャングによる犯罪が横行し、脱出してきた国と変わらないという事情があります。

 独裁国家の圧政や法律を無視した利権争いの犯罪行為が横行する国では、力を持たない一般市民は最終的には逃げる以外の選択肢はありません。彼らは自国にない文明の成熟した国をかぎ分ける特別な臭覚を持っているといえます。アメリカは自由と人権が保障され、正義が働く国であり、誰にでもチャンスが与えられる国というイメージが定着しています。

 力を持つ者に全ての富が集中し、正義は機能せず、自由はなく、チャンスを与えられない環境で暮らす人々ほど、その価値が分かるということだと思います。それに多文化を受け入れる懐の深さを持つのもアメリカです。

 問題なのは、国民が逃げ出すような国家を国際社会が変えられないことです。国連はトランプ氏が移民阻止で軍を派遣することに苦言を呈する程度で、ホンジュラスの根本的問題に関与する力もありません。シリアの内戦が激化しても国連軍が安保理常任理事国のロシアや中国が反対するので、有志連合で動くしかありません。

 人道支援団体は地中海を命懸けで渡る難民・移民の救助はできても、彼らが逃げてきた国にはなす術がありません。だから、アメリカは国連を見限っているのも一理あります。東西冷戦終結後、多極化均衡論が流行り、パックスアメリカーナは終わり、国連重視の声が高まりましたが、中国の覇権主義などで問題解決にはほど遠い現実が突きつけられています。

 メキシコを行進するキャラバンの人々は、この現実の犠牲者ともいえます。強制的に自国に返せば、貧困と生命の危険に晒されるのは必至です。帝国主義時代なら力のある国が植民地化することで、その国の人間を奴隷化する代わりに混乱は収拾できたわけですが、今はそんな時代でもありません。

 トランプ大統領の掲げる移民政策に、中間選挙を控え、保守派の70%が支持を表明しているというデータもあります。人道的理由だけで流入を許し、犯罪者も同時に流れ込むことだけは避けたいというアメリカ人の気持ちも理解できます。

 「経済支援もしてるんだから、ちゃんと国家を運営しろよ」とアメリカ人はいいたいのでしょうが、いつもその金は為政者に渡るか、有効に使われないかという悲しい現実があります。ここでトランプ氏に、アメリカを守る愛国心だけでなく、中米の安定のために国連を引っ張り、一肌脱いで介入する知性があれば、もっと人物評価を上げられるのにと個人的には思っています。

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安部雅延(あべ まさのぶ)
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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